著者
高山 淳司
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.10, pp.p121-128, 1981-12

いわゆる境界設定 (demarcation) の問題は,ポパーの科学哲学の中心問題の一つである.彼は科学と非科学論理学や形而上学,特に占星術や精神分析などの疑似科学との間に境界を設定せんとし,その基準として反証可能性 (falsifiability) を提案したのは周知のとおりである.それに対して多くの反論がなされて来たが,とくにT.S.クーンが "The Structure of Scientific Revolutions (1962)" において,パラダイムの地位を得た理論は反証に対して高度の免疫性をもつことを主張して以来,これと類似の角度から科学理論の反証不能性が論じられることが多くなって来た.本論文ではH.バトナムの"The `Corroboration' of Theories" におけるポパー批判を手引として,境界設定の基準としての反証可能性の概念をめぐって二三の考察を行いたいと思う.バトナムの論文は,反証可能性の問題以外にも,ポパーを批判するいくつかの論点を含んでいるが,ここでは反証可能性の問題に限定して論じることにする.