著者
鮎澤 諭志 森川 英明
出版者
日本シルク学会
雑誌
日本シルク学会誌 (ISSN:18808204)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.41-52, 2023 (Released:2023-10-19)
参考文献数
22

本研究では,明治,大正,昭和期における68点の技術資料を精査して煮繭・繰糸温度の変遷および原料繭の特性のパラメータの解析を行い,各時代における改変要因の分析を行った.その結果,煮繭・繰糸温度は,明治前半期に大きなばらつき幅がみられ,1900年頃以降は高温に収束し,総じて上昇傾向で推移していた.ばらつき幅が生じた要因は,明治前半期の原料繭は繭層が薄弱で品質が低く,繭乾燥技術等も未発達であったため,官営富岡製糸場の起点温度より低温煮繭・低温繰糸の3象限に多く分布し,高温煮繭(若煮),浮繰り繰糸を行う1象限と4象限にも一定数が分布したことにあった.1900年頃以降は繭乾燥技術の進展等によって高品質繭の割合が増加した一方,低品質繭等も高い割合が維持されたため,能率に特化した生産目的が継続され,大正期には原料繭の品質向上によって品位重視に転換した.その結果,高温煮繭(1・4象限)への収束がみられたと推察した.