- 著者
-
鮫島 由佳
椿 宜高
- 出版者
- 日本生態学会
- 雑誌
- 日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
- 巻号頁・発行日
- pp.582, 2005 (Released:2005-03-17)
全ての生物は周囲の環境温度との関係によって、自らの体内で熱を発生させ一定の体温を維持する内温生物(鳥類・哺乳類)と、体温調節をほぼ外部の熱源に頼っている外温生物(その他の生物)に分類することができる。しかしこれには数多くの例外があり、外温生物とされる昆虫類の中にも活発に活動して内温的に体温を上げるものがいることが報告されている。トンボの体温調節に関してはMay(1976~)らによって多くの知見が得られており、それによると周囲の気温に対するトンボの主な体温調節法は気温順応、太陽熱性、内温性に大別することができる。体温調節法の選択は生息地の温度環境や生理的条件、基本的な活動パターンによって異なり、各種のトンボはそれぞれの環境に適応した戦略を持っていると考えられる。トンボは異なる体サイズを持つ複数種が同地域に生息している場合がほとんどであるから、体サイズによって異なる体温調節メカニズムを持っていることが考えられる。そしてそれは、内温性と外温性の飛翔戦略などの行動的調節や生理的調節に大きな影響を及ぼしていると考えられる。この点に注目して、トンボの体サイズと体温調節法との関連性について実験を行った。野外で採集した数種のトンボについて、サーモビジョンを用いて気温への順応速度および冷却速度を測定した。その結果、体サイズの大きいものほど周囲との熱交換率が低く、外部の熱源を利用しにくいことが分かった。そのような大型の不均翅亜目3種(オニヤンマ、オオルリボシヤンマ、ギンヤンマ)は、気温順応とは別に翅を震わせる行動(ウォームアップ)によって体温を上昇させた。また、この3種のうち生息分布域の南限が一番北にあるオオルリボシヤンマは、他の2種よりも低い温度からウォームアップを始めた。このことから、内温性の体温調節を開始する外気温は地理的な気候条件への適応を反映していると考えられる。