著者
塩崎 一郎 河合 隆行 野口 竜也 齊藤 忠臣
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

鳥取砂丘の起伏の象徴である馬の背,その南側の凹地に季節によりその姿を変化させるオアシスがある.このオアシスはいつもみられるわけではなく,夏季には消滅する.また,オアシス凹地へは絶え間なく地表を流れて注がれる流入水が存在しているが,オアシスが存在していないときには,流入水は尻無川となっている.はたして,このオアシスが如何なるメカニズムで発生・消滅しているのだろうか.すなわち,この流入水はどこからきて,どこへ流出するのだろうか.このオアシス湧水に関する問いかけは,古くからの学術的関心であり,例えば、砂丘に降った雨水が地下水となり,一部が泉となって地表に再び表れるという考え方(赤木,1991),保水性の良くない砂丘砂に浸透した雨水が、水を通さない基盤岩の不透水層や透水性の悪い火山灰層の付近に地下水として貯留し、これが湧水となるという考え方(財団法人自然美化管理財団、1995)、近年では、オアシスの形成と砂丘南側に位置する多鯰ケ池の水位変化の関連性を調べた研究(星見,2009)などの知見が既に提出されている. 一方で,学術的に高い価値を有している鳥取砂丘の自然環境は,その自然状態を保全・維持しつつ後世に継承されることが強く望まれているため,砂丘内の自然環境に人為的な影響が生じないよう厳しく管理されており,井戸などの人工物の設置や大型測器による地下水位探査が事実上不可能である.このような理由から,現在に至るまで十分な調査が成されておらず,オアシスの発生・消滅メカニズムを定量的に解明する目的で行われた研究はなく,まだ結論は出ていない. 本研究はこの問いに答える目的のために,すなわち,砂丘内湧水(オアシス)の起源を探るために鳥取砂丘の地下構造と地下水大循環に関する研究を実施した.すなわち,様々な非破壊的な物理探査法を用いて砂丘の地下構造を推定し,地下水の存在形態や流動様式,砂丘の基盤構造などに関する基礎データを得ると共に,水文学的な手法も用いてオアシス湧水の起源ならびに定量的な消長メカニズムの解明を試みた.ここで用いた具体的な方法論は後節に譲るが,概略として,前者の地下構造推定のためには,電気比抵抗映像法,1m深地温探査法,自然電位法,微動探査法,重力探査法を適用し,後者のために,オアシス水に関する水位連続観測ならびに蒸発量解析,オアシス域およびその周辺域の地下水位調査,降水ならびにオアシス湧水と多鯰ヶ池の採水データの安定同位体比解析を導入した.なお,前者の用途においては観測地点の位置や砂丘域全体の地形を把握するためにデファレンシャル法を用いたGPS測量を行い,後者の用途ではオアシス水域およびその周辺の微地形把握のためのトータルステーションを用いた測量を実施した. その結果,鳥取砂丘の地下構造と砂丘内湧水(オアシス)の起源に関して,次に示すようなひとつの結論を得た.「雨水が砂丘砂に浸透し,地下水となる.その一部は火山灰層を主体とする帯水層に導かれ(宙水として)オアシス湧水へ注がれる.オアシス湧水は馬の背の地下を超えて海へ注がれる.オアシス湧水と多鯰ヶ池の水には同時刻的・直接的関連はみられない.また,鳥取砂丘(観光砂丘)全域の大局的な地下水分布は地下構造解析から推定された基盤形状の起伏と関連がみられる.」本研究によりこれらのことが砂丘の地下構造や水位変化,同位体変化などの定量的な観測値から検証されたことに意義があると考えられる.ここではこのような研究の基礎となる学術的背景と調査の概要,複数の調査結果とその解釈,そして,全体を統括したまとめを報告する. なお,本稿で報告されるデータは主に平成21年度?平成23年度に交付を受けた鳥取県環境学術研究振興事業「鳥取砂丘の地下構造と地下水大循環に関する研究-砂丘内湧水(オアシス)の起源を探る-」の一環として取り組まれた種々の研究により取得されたものであることを明記する.