著者
Tsukawaki Shinji Asano Izumi Kamiya Takahiro
出版者
The Japan Society of Tropical Ecology = 日本熱帯生態学会
雑誌
Tropics = 熱帯研究 (ISSN:0917415X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.291-316, 1999-05-30

南タイのクロントムならびにサトゥン両地域に分布するマングローブ林周辺水域での堆積作用の解明を目的とし,1996年12月および1997年8月にクロントム地域から56ならびにサトゥン地域から53の水底堆積物をそれぞれ採取し,堆積物の組成およびその水平分布・変化を調べた。また,内部水域にへの海水の到達範囲の確認および全域にわたる水底地形の把握のため,表層水の水質調査および測深を採泥と並行して行った。クロントム地域の水底には全域にわたって砂質堆積物が卓越する。これに対してサトゥン地域ではおもに泥質堆積物が分布する。これは両地域における砕屑性堆積物の主供給源となる後背地の地質をそれぞれ反映するものと考えられる。また,両地域の堆積物に含まれる砕屑性堆積物が主として両地域の背後に分布する古~中生界に由来するのに対し,底生有孔虫や介形虫などの生物源堆積物は,おもにマラッカ海峡などの海底を起源とするものといえる。これに加え,いずれの堆積物にも豊富に含まれる炭粒子は,マングローブ林内または周辺地域の村落や炭焼窯から流出したものと判断される。このように,これらの堆積物はいずれも生産地が特定されるものであり,両調査地ともに生産地から離れるにつれて,これらの堆積物の堆積物全体に対する含有量の減少や細粒化が追跡される。したがって,これらの堆積物の粒度変化や含有量の変化に加え,両地域における陸上・水底地形の特徴にもとづき,両地域における堆積物の移動過程・経路が推定される。