著者
サイモンズ・ クリストファー Christopher SIMONS
雑誌
Gender and Sexuality : Journal of the Center for Gender Studies, ICU
巻号頁・発行日
no.6, pp.25-50, 2011-03-31

本論文は、詩人シルヴィア・プラス (1932-1963) 作品におけるジェンダー役割への不安について伝記的・文学的に考察する。研究の背景として、プラスを、彼女自身知ることはなかった同時代のフェミニスト、とりわけベティ・フリーダンの著作『新しい女性の創造』 (1963; The Feminine Mystique) の文脈に位置付ける。また、プラスのジェンダー関係についての内なる葛藤に両親が与えた影響や、この葛藤について彼女自身が日記に記した分析についてフロイトやユングの精神分析の言語を用いて論じる。 本稿の方法論は、クロード・レヴィ=ストロースの神話構造分析を取り入れ、プラスの著作とりわけ詩作品における二項対立的なジェンダー役割を読み解く。レヴィ=ストロースはそれらの方法を文学批評で用いることに難色を示しているものの、この特定のケースにおいては、詩人自身の心理学・人類学の知識によって無意識にその著作での原型的・神話的構造が強調されているため、この女性詩人の作品を分析するのに有益な枠組みを与える。 次に、プラスのジェンダー役割に関する散文による著述(日記や小説)と詩作品を対照するものとして取り上げる。本稿は、プラスの日記が、彼女が二項対立的なジェンダー役割概念を形成するに至った経験や、それによって生じた不安についての記録であることを示す。日記や小説『ベル・ジャー』 (The Bell Jar) において、プラスは模倣的にこうした対立を仲介し解消しようと試みる。たとえば、主人公エスター・グリーンウッドの生涯を重要な出来事を歴史とそれらの出来事に対してのエスターの意識的・感情的反応を、時間の流れとは無関係に語る。『ベル・ジャー』の結論は、ミメーシスと進歩的な自己統一という心理的勝利を明らかする。作品のクライマックスは彼女自身の精神的変遷の表象と将来への投影を示しており、彼女のセラピスト、ルース・ブーシャー博士の影響を受けている。対照的に、詩作品では、プラスは、ジェンダー役割への不安を仲介し解決しようとする試みにおいて、構造化された神話的対立に対しより対話的に取り扱っている。プラスの詩2作品を精読すると、これらの詩に現れる神話的な二項(たとえば父-母、男-女、破壊者-創造者、捕食者-被食者、文化-自然等)は仲介や解決を受けつけないことが明らかになる。本論文は、解消されない神話的二項対立によって表現されたプラスのジェンダー役割への不安の文学的効果を考察し、それらの緊張関係は詩の情緒的力を高めると同時に、プラスが最終的に満足のいく自身のジェンダー役割を見出すことが出来なかったことへ洞察を与える。 本研究は、プラスのジェンダー役割への不安は、イギリス・アメリカにおける初期第二次フェミニズム研究と、現代社会における女性のジェンダー役割をめぐる現在進行の論争に、価値ある議論とレトリックを与えると結論付ける。