5 0 0 0 OA 妖精の贈り物

著者
花田 文男 ハナダ フミオ Fumio HANADA
雑誌
千葉商大紀要
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.1-30, 2005-12-31

人の一生は神々によって定められているという信仰は古い時代からある。ギリシアではMoirai,ローマではParcaeの三姉妹の女神が,北欧ではnornirたちが運命を定める役割をになっていた。中世のフランス文学に登場する妖精feeは彼女たちの末裔である。人の誕生に際して,妖精たちは主人公の枕元におとずれる。多くの場合彼女たちはやはり三人で,主人公に好運,あるいは不運を与える。王の招待にあずからず,金の食器も供されなかった年老いた妖精が,いまいましさのあまり,つむが手に刺さり,それがもとで死ぬ運命を生れたばかりの王女に与える。最後に控えた妖精によって,死は百年の眠りにかろうじてとって代えられる。誰もが知っているシャルル・ペローの「眠れる森の美女」のお話である。同じようにオーベロンは妖精たちによってさまざまな贈り物を与えられるが,一人の妖精の悪意,腹立ちから身のたけが三尺に満たない小人の運命に定められる。他の善意の妖精,あるいは奇妙なことに当の妖精からその埋め合わせに類いまれな美しさを得る。中世フランスの物語文学の諸ジャンルである武勲詩,アーサー王物語,冒険物語を通じて,妖精の贈り物を受けた主人公は枚挙にいとまがない。アーサー王自身もある異伝によれば,この恩恵にあずかった。妖精からの贈り物は民間伝承の中の信仰としても,文芸のモチーフとしても,中世の作者と読者によって偏愛されたようだ。ここではその一端を通観する。

2 0 0 0 OA 奪われた王妃

著者
花田 文男 ハナダ フミオ Fumio HANADA
雑誌
千葉商大紀要
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.13-44, 2011-03
著者
花田 文男 ハナダ フミオ Fumio HANADA
雑誌
千葉商大紀要
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.17-38, 2004-12-31

殺害者がいると死体は血を流す,血を流して殺害者を告発することは中世人にとってはあり得べきことであった。古くから受け継がれた伝承,信仰であると同時に事実の認識であった。中世の歴史家はたびたびその事実を報告している。おそらく死者にも意思が存在するという信仰の名残りであろう。とりわけ非業の死をとげた者ほど強い意思,うらみが残った。このモチーフを文芸作品の中ではじめて用いたのは12世紀後半のクレチアン・ド・トロワである。『イヴァン(獅子の騎士)』では,イヴァンは致命傷を負わせた騎士を追ってかえって城の中に閉じこめられる。魔法の指輪によって姿の見えなくなったイヴァンの前を騎士の遺体が通ると,遺体から血が噴き出す。遺体から血が流れているのに,犯人が見当らないことに周囲の者は不思議に思う。作者がどこからこの想を得たかは不明にしても,殺害者が自ら殺した者の葬列の場に居合わせざるをえないという状況がこのモチーフを用いさせた動機となったのではなかろうか。彼の追随者たちは好んでこの主題を取り上げるが,師ほどの成功を収めることはなかったようだ。