著者
Gabius Hans-Joachim 平林 淳
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology
巻号頁・発行日
vol.6, no.29, pp.229-238, 1994
被引用文献数
7

ヤドリギは、ケルト人によって伝統的にすべての病を癒す「万能薬」とみなされていたことが古代ローマの歴史家プリニウスによって記されている。しかし一方では、北欧神話にでてくるバルドルの物語のように、致死毒をもった兵器としての側面もあわせもつ。けっして科学的な根拠に裏付けられたわけではないが、こういった伝承が今世紀になってR. スタイナーがヤドリギ抽出物を癌治療へと用いるひとつのきっかけになった。今日の西ヨーロッパでは、いわば非科学的といえる種々のヤドリギ製剤が出回り、かなりの人気を博している。しかし、一般に主張されるような医学上の効用については、いまだに科学的な証明がなされておらず、無神論的立場をとる医学界での評価を受けていない。効用についての判断に際し明らかに障害となっているのは、市販の抽出物中に含まれる各化合物の濃度が明記されていないことだ。そこには生理活性を示す物質も含まれているはずだが、どのように処方すべきかも定っていない。このように、現状では真相解明以前の問題で、用いる側の願望が先行し、性状が明らかにされた物質を用いた無作為試験などによる将来につながる方策が取られていない。しかし、最近になって臨床研究へと発展させるべく、地道ではあるが着実な生化学的、細胞生物学的、そして実験動物を用いた研究がなされるようになってきた。ここで焦点を当てるのはヤドリギに存在するレクチンである。動物腫瘍モデルを用いた in vitro、in vivo の実験によると、ある種のガラクトシド結合性レクチンがさまざまな生物応答反応を調節することが示されている。レクチンによる免疫調節能の医療効果については早急には結論づけられないが、このような神話や伝説が伏線となって現在のレクチン研究が医療応用に向けて動き出そうとしている。