著者
Koishi Takiko
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.351-358, 1983-03-01

胎芽,胎児の放射線感受性は母体に比し高度で,出生前の被曝は異常個体発生の原因となり得ることは,よく知られている.しかし発生の根源へさかのぼって,受精前の生殖細胞への放射線の影響は,まだ明確にされていない.そこで今回は,特に未知である排卵前の時期別X線照射による未受精卵の放射線感受性を成熟雌チャイニーズ・ハムスターを用い究明した.採卵はすべて発情期に行ない,採卵よりみて5周期前より12時間前の間を4時期に細分し,X-ray 200Rを照射し,卵子第2成熟分裂時の染色体分析をホルモン剤などによる排卵誘発の影響なしに行ない,非照射群である対照群と比較した.照射より採卵までの時間が短くなる程,放射線感受性は増加した.予定排卵の5時間前(第1成熟分裂中期)に照射した群での染色体異常卵子出現頻度は42.1%と高率であった.採卵より2-4日前照射群,1周期前照射群共に対照群に比し,有意に高い異常卵子出現をみたが,5周期前照射群では有意差がなかった.更にX線照射による数的異常,構造異常の頻度についても検討したところ,異常卵子出現頻度は,数的異常より構造異常において,時期による差が著しく認められた.以上の結果より,排卵期及びより以前の時期においても,放射線被曝による危険性があることを示した.