著者
小松 秀茂 コマツ ヒデシゲ Komatsu Hideshige
出版者
東北芸術工科大学
雑誌
東北芸術工科大学紀要
巻号頁・発行日
no.15, pp.100-103, 2008-03

脳損傷患者の構成活動に関するA. R. LuriaやL. S.Tsvetkovaらの研究に示唆を受けた我々は、「コース立方体テスト」事態における知的障害児・者の構成活動を発達神経心理学的な観点から分析することを試みてきた。今回我々は、この構成活動の事態において特異な言語活動を呈した自閉症的傾向を持つ知的障害者に遭遇した。彼は、その自閉症的傾向の故に、検査導入時の教示の理解に困難を示し、検査実施が危ぶまれたほどであったが、実際に検査が始まると、案に相違して、用意されてある17課題すべてを解決し、田中・ビネー検査からの予測をはるかに上回るパフォーマンスを示した。そのこと自体驚くべきことであったが、検査の中でのみ示した彼の言語活動も、特筆に価する独特な特徴を持つものであった。彼の言語活動は、日常的生活でのコミュニケーション場面では、極めて不活発であったが、構成活動の場面では、一変して、非常に活発な発話(独語)を伴わせ、むしろ多弁であった。そしてそのほとんどは、構成見本の空間的な特性の分析や積木(構成要素)の方向操作に係わるような表現ではなく、行動の開始や終了の合図や確認のような表現、「自分の構成行動を実況中継(自分自身を三人称で表現)」する放送アナウンサーもどきの発話であった。彼のそうした言語活動の機能的性格は、構成活動に必要な空間的な分析・操作を担う成分に奉仕するものではなく、構成行動を企画・制御する成分に奉仕するものであることが示唆された。