著者
中村 昌照 平尾 喜代司 Mark Ian Jones 山内 幸彦 神崎 修三
出版者
公益社団法人日本セラミックス協会
雑誌
日本セラミックス協会学術論文誌 : Nippon Seramikkusu Kyokai gakujutsu ronbunshi (ISSN:18821022)
巻号頁・発行日
vol.111, no.1297, pp.658-663, 2003-09-01
被引用文献数
1

工業機器において,摺動部の摩耗を低減し究極的には摩耗しない材料・システムを開発することは重要な課題である.摩耗を低減する手法として,2物体の間に流体を介在させるのが現状最も有効なものである.しかし荷重・摩擦速度が摺動システムで想定された条件から乖離するに従い,流体膜は破断し固体接触部が増大し加速度的に摩耗が進行する.したがって本質的に"減らない"材料の開発が,実際の工業製品への適用範囲も広く,より現実的に求められる手段といえる.セラミックスは鉄鋼に代表される金属材料に対し,高い硬度,耐熱・耐酸化性,化学的安定性を有しており,低摩耗摺動材料として有効な材料である.特に窒化ケイ素セラミックスは,高強度・高靭性を両立しうる構造用セラミックスとして知られ,ボールベアリング,燃料噴射ポンプ用摺動材等工業的実用例も多く,また摩擦摩耗挙動に関する研究例も数多く報告されている.摺動部材には構造材としての機能も要求されることが多く,この点からも窒化ケイ素セラミックスが有力な候補材であるといえる.構造用部材に用いられる窒化ケイ素セラミッスは,α-Si_3N_4粒子を原料として用い,焼結過程でβ-Si_3N_4に相転移させたものが一般的であり,柱状のβ-Si_3N_4粒子がランダムに絡み合った微構造をとる.そしてこの微構造によりセラミックスとしては高い靭性が実現されている.近年著者らの研究グループは,シーディングと押出し成形法を用いて,高アスペクト比の柱状粒子が一方向に配向した窒化ケイ素焼結体を開発し,この材料が従来の窒化ケイ素に比べ,高い強度と靭性を有することを明らかにした.この配向窒化ケイ素の微構造の異方性を利用し,微構造と摩擦摩耗挙動の関係を明らかにすることで,低摩耗材料の設計指針となる基礎的知見を得ることが大いに期待される.これまでに著者らは,5Nの低荷重下で配向方向に垂直な面が最も耐摩耗性に優れ,摩擦速度が大きい場合にはトライボケミカル反応生成物の潤滑効果により摩擦係数が低下することを報告した.また湿度を低下させトライボケミカル反応生成物の潤滑効果を抑制した場合も,同様に配向方向に垂直面の耐摩耗性が優れていることも明らかにした.一方実用部品への適用を考慮した場合,高荷重(高面圧)下での摩耗特性も要求される・高荷重下では,相手材との接触で導入される微小亀裂による破壊が摩耗に支配的となる.この亀裂の進展挙動を明らかにすることで,耐摩耗性向上に関する基礎的な知見を得ることが期待される・本研究では,配向窒化ケイ素焼結体を用い高荷重下でのブロックオンリング摩擦試験を行った.更に微小破壊が摩耗に至る過程を明らかにするために,ひっかき試験を実施し摩耗試験の結果との対比から微構造が摩耗機構に及ぼす影響,及び摩耗特性との相関について調査を行った.