著者
米田 眞澄 Masumi YONEDA
雑誌
女性学評論 = Women's studies forum
巻号頁・発行日
vol.28, pp.69-86, 2014-03

日本では、2000年の国連による「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書」の採択を受け、2004年12月に人身取引対策基本計画を策定し、人身売買の取締と被害者の保護のための政策が開始された。2005年には議定書批准に向けた国内法整備を目的に刑法、出入国管理及び難民認定法などの関連法の改正がなされた。とりわけ、人身売買者の処罰については、刑法に新たに人身売買罪(刑法226条の2)が新設されたことが注目された。しかし、人身取引事犯の検挙数は少なく、その多くは、人身売買罪ではなく、売春防止法あるいは職業安定法など既存の法律を使って逮捕・起訴されている。これは、人身売買罪の成立要件である不法な支配の確立とその移転について、売渡し人が被害者に対して支配を確立していたとみなされる基準が狭いためである。一方、被害者の保護からは、借金の返済の為に売春を強要される女性たちがいることが明らかとなってきている。そのような女性たちは戦後に多くみられたが、当時においても、ほとんど処罰がなされないと批判されていた。本稿では、借金返済のために売春を強要される事例においても人身売買罪の適用は困難であり、性的搾取を目的とする人身売買の摘発にあたっての国の方針は戦後から変わっていないことを明らかにする。