著者
成田 奈緒子 Narita Naoko
巻号頁・発行日
2004

自閉症とは、対人関係の障害、コミュニケーションの障害、こだわり、限局された興味の範囲を主症状とする広汎性発達障害である。神経伝達物質セロトニンがその発症に関与しているとされるが、詳細は不明である。私たちの研究室では、自閉症モデルラットを作成した。これは、1 9 6 0 年代のサリドマイド薬害禍で自閉症発症が高率に増多したという疫学的事実にヒントを得たもので、血中及び脳内のセロトニン・ドパミンの上昇、セロトニン神経系の起始核形成異常などの脳の形態変化など、ヒト自閉症でも一部観察される所見がみられることを明らかにしてきた。しかしながら本モデルラットが真の「自閉症モデルラット」といえるためには行動学的検討を加える必要がある。そこで本研究では、この自閉症モデルラット、即ちサリドマイド又はバルプロ酸を妊娠ラットに投与して出生した仔ラットにおける新規探索能力、空間認知能力、社会的行動を行動学的実験法によって解析し、さらにその行動異常のもととなると思われる物質、即ちセロトニン系の受容体発現について検討することで自閉症の病態を解明することを目的とした。八方向放射状迷路実験では、自閉症モデルラットは学習達成能力がコントロール群と比較して劣っており、非探索的行動が見られ、オープンフィールドテストでは、新しい環境下でのみ自閉症モデルラットで活動性( 行動量) が増加していること、そして社会相互作用テストでは、社会相互作用が低下していた。さらに、これら行動変化をもたらすと思われる分子基盤の解明のために、脳内セロトニン機能を調節しているセロトニン2A 受容体と5A 受容体のmRNA 発現量を、今回は特に海馬と小脳で定量したところ、自閉症モデルラットにおいて海馬のセロトニン2A、5A 受容体mRNA 発現量の低下、一方小脳では、VPA 投与で作成した自閉症モデルラットでセロトニン2A、5A 受容体mRNA 発現量の上昇が見られた。 ...