著者
Shuji Yamano
出版者
JAPANESE SOCIETY OF OVA RESEARCH
雑誌
Journal of Mammalian Ova Research (ISSN:13417738)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.177-184, 2004 (Released:2004-12-25)
参考文献数
15

本稿では現代の生命倫理学の原則ならびに胚の倫理学的地位について解説した.現代の生命倫理学はベルモント報告書に報告された三つの原則に基づいており,この諸原則は人格の尊重,善行,公正からなっている.この中では人格の尊重がもっとも重要で,優先される.原則同士がコンフリクトするような事例に遭遇した場合,最優先権をある原則に与える必要がある.しかし,どのようにしてひとつの原則を最優先権あるものとして選択するかはいまだに解決されていない問題である.一方,胎児の倫理学的地位を考えた場合,最も重要なことはいつ胚や胎児が人格性を持つかということである.カトリックは受精した瞬間から胚を人格とみなすと1974年に宣言している.しかし,多くの生命倫理学者は自律的な行為者とは,自分の個人的な目的を熟慮でき,その熟慮の結果に従って行動できる人と考えている.この考えに従うと人工妊娠中絶を認めるのみ留まらず,嬰児殺しまで許容することになる.本稿の後半では胎児の倫理学的地位について説明する.