著者
谷 一郎 TANI Itiro
出版者
東京帝國大學航空研究所
雑誌
東京帝國大學航空研究所報告 = Report of Aeronautical Research Institute, Tokyo Imperial University
巻号頁・発行日
vol.15, no.197, pp.308-395, 1940-09

この論文は,單葉翼の空氣力學的特性を簡單に計算する方法に就いて述べたものである.先づ單純な主翼を對象とし,プラントルの積分方程式を逐次近似的に解いて,翼幅に沿ふ循環の分布を決定する.この際誘導速度の値を,數個の代表點の循環の値の一次的結合として與へる事により(近似積分に於ける平均値法),計算の勞力を著しく縮少する事が出來た.循環分布が決定されるならば,更に同樣の方法を用ひて,揚力係數,誘導抵抗係數等を簡單に求める事が出來る.次に下げ翼或は補助翼操作の場合を取扱ふために,操作の影響を楕圓翼に就いて求め,その結果を比例の假定によつて問題の翼に移す方法を採用した.この樣にして,下げ翼操作に基く循環分布,並びに揚力及び誘導抵抗の増加,補助翼操作に基く循環分布,並びに横搖及び偏搖モーメント等を簡單に導く事が出來る.同じ方法を用ひて,横搖及び偏搖に基くモーメントを計算する事も出來る.尚典型的な先細翼を例題的に取扱ふことによつて,計算方法の説明を補ひ,併せてその精度の吟味を試みた.併し一方に於て,種々の空氣力學的特性の數値を知る事も,實用上必要と思はれるので,直線的先細翼(梯形翼)の系統に就いて計算を實行し,その結果を多くの線圖によつて示した.この論文に述べた方法は勿論近似的なものであるけれども,その結果は實用上十分な精度を持ち,しかも所要の計算は,從來の方法に比べて極めて簡單であるから,飛行機設計その他の實際問題に有效に應用されるものと思はれる.解法の骨子は,既に二三の機會に發表したものが多いが,この論文は個々の提案を一つの形式に整へ,足らぬ分を補ひ,實際問題に應用する目的に適ふ樣に纒めたものである.