著者
Tanaka Tyôzaburô 田中 長三郎
出版者
琉球大学農家政学部
雑誌
琉球大学農家政学部学術報告 = Science bulletin of Agriculture & Home Economics Division, University of the Ryukyus (ISSN:03704238)
巻号頁・発行日
no.4, pp.91-116, 1957-07

芸香料柑橘亜科は北進と共に次第にその属数を減じ,琉球において僅にハナシンボウギ属・ゲッキツ属及び2,3柑橘属の野生を見るのみであるが,他に導入によるカラタチ属及びキンカン属の裁培を見るの外,過去においてワンピ属ワンピの裁培を見た。柑橘属においては従来野生はただ1種のみでシイクワシャーがそれであると認められ他に栽培種としてオートー・タロガヨ・ケラジの1品種としてのカブチー・ダイダイ・ザボン・レモン・マルブシュカン・ナツダイ・クネンボ・ポンカン・タンカン・アマダイダイ・その変種のWashington navel orange・ウンシウ・ヒウガナツ・ロクガツミカンなどが報告されていた。第一に野生柑橘たるシイクワシャーは1926年著者の沖縄本島実地踏査によりその台湾産ヒラミレモン Citrus depressa HAYATA と同種であると同定せられて以来ただ1種であると認められて来たが,園原・多和田・天野の3氏はタチバナ Citrus Tachibana TANAkA が混生しているのではないかという注意を喚起された。元来この両者は野外において往々鑑別困難の場合があるが,注して観察すると立派に区別され得る場合が多く,タチバナの分布は沖縄から石垣・西表に達することが判明したのみならず,極めて判然たる1変種タニブター var.attenuata n. var. の存在をも確認し得た。ただタチバナが台湾高地に再現することは両地の気候差では説明できず樟櫧帯という共通植物帯の存在によるものであると考えるの外はない。一方シイクワシャーは実生繁殖による多少の変異はあるが,別に植物学的変種・品種と称し得るものは存在しないことを知った。クネンボ(トウクニブ)は沖縄北部の名果であるがその起原は南方から導入したもので,後鹿児島へ渡り日本で普及するに至ったものである。従て今回無核系統の存在を発見したことは重大な意義がある。オートーと共に多く栽培されているカブチーは確に奄美大島のケラジと同種であるが正に変種たるに値するものであるのみならず, ケラジそのものも北部沖縄にウンゾキーと称して厳存することが判明した。タロガヨはこの両種のいずれにも属せず,独立の栽培種であり,またケラジに類するカーフクルーが新種 Citrus inflato-rugosa.SP.と決定した。