著者
Tuchais Simon
出版者
SOCIETE JAPONAISE DE LINGUISTIQUE FRANCAISE
雑誌
フランス語学研究 (ISSN:02868601)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.35-50, 2012-06-01 (Released:2016-11-18)
参考文献数
6

個人的意見を表す際に,思考動詞を用いた表現がよく使われる.その中で,je considère que とj’estime que という表現は,非常に近い意味で使用され,置 き換えても意味がほとんど変わらない場合が多い.それにもかかわらず,先行研究では,je considère que は,je trouve que との類似がしばしば指摘されるだけであり,執筆者の知るかぎりj’estime que との関係で論じられたことがない.本稿の目的は,je considère que とj’estime que の用法を観察し,その共通点と相違点を明らかにすることである.モダリティ表現として機能する思考動詞を用いた表現を一つのクラスとして規定したうえで,その中にje considère queとj’estime queを位置づける.そのために,DUCROT( 1980)のprédication originelleとGOSSELIN( 2010)のThéorie modulaire des modalitésで用いられているvariabilité(可変性)の概念を導入し,je trouve que との類似を検討してそれらの特徴を浮き彫りにし,さらにそれらの相違点を論じる.その結果,他の表現と異なり,je trouve que,j’estime que,je considère que はいずれも高い可変性を表すという点で同類であるが,中でもje considère que と j’estime que はその可変性を高める能力を持っていること,またje considère que は j’estime que よりその能力が高いことが判明する.また,この検討を通して,思考動詞を用いたモダリティ表現の分類におけるvariabilité の有効性が明らかになる.