著者
青木 耕治 Yagami Yoshiaki
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.34, no.10, pp.1773-1780, 1982-10-01
被引用文献数
8

原因不明習慣性流産(習流)に対する疾患感受性遺伝子の関与の有無と,習流夫婦間の主要組織適合性の差異を検討する目的で,習流夫婦26組と,対照として2人以上の子供を有し流産既往のない健常夫婦45組と健康成人206名のHLA-A・B・DR座抗原(A座8種,B座21種,DR座10種)を検索し,更に習流婦人26名についてはHLA-A・B・C抗体とDR抗体をも検索した.その結果:(1)習流夫婦と健康成人のA・B・DR座抗原遺伝子頻度を比較すると,習流夫婦の妻は,A11に関して26.6%を示し,健康成人の8.6%に対し有意に高い傾向を示した.(2)習流夫婦と健常夫婦のHLA適合性を比較すると,DR座について,1つ以上共通抗原を持つ組が前者で84.6%,後者で24.4%であり,明らかな有意差をみた.又,DR座について,夫が陽性で妻が陰性というMajor不適合の全くない組は,前者で26.9%,後者で2.2%あり,有意差をみた.逆のMinor不適合については,有意差はなかつた.(3)抗体の検索では習流婦人1名にA・B・C抗体を認め,DR抗体は全例の習流婦人に陰性であつた.以上の結果から,免疫遺伝学的見地より,A11を持つ妻は流産になりやすい可能性があり,移植免疫学的見地より,夫婦間のDR座抗原適合性が免疫学的妊娠維持機構に破綻をもたらす可能性があるという事が示唆された.