著者
中谷 智美 福井 義一 大浦 真一 今井田 貴裕 Tomomi NAKATANI Yoshikazu FUKUI Shinichi Oura Takahiro IMAIDA
出版者
甲南大学文学部
雑誌
甲南大學紀要.文学編 = The Journal of Konan University. Faculty of Letters (ISSN:04542878)
巻号頁・発行日
vol.172, pp.151-171, 2022-03-30

催眠療法の心身の疾患に対する有効性が認められているにも関わらず,催眠に対する否定的なイメージが流布しているせいで,わが国における催眠療法の活用は不十分であると言える。催眠の適切な普及と発展を促すには,催眠に対する態度(催眠態度)を改善する方法を開発する必要がある。催眠態度は催眠状態期待(主体性喪失期待,潜在能力解放期待)の影響を受けることから,本研究では催眠状態期待を適切に修正することを意図した3 種類の心理教育による意識的・非意識的催眠態度の変化の違いを検討した。54 名の一般大学生を3 つの条件(主体性喪失期待修正条件,潜在能力解放期待修正条件,統制条件)に割り付け,心理教育の実施前後で質問票調査を実施した。分析の結果,意識的催眠態度は,主体性喪失期待修正条件において事前の意識的催眠態度が否定的であった群と,事前の意識的催眠態度が否定的であった男性において肯定的に変化した。一方で,条件にかかわらず,事前の非意識的催眠態度が肯定的な場合は,心理教育により中庸化したのに対して,否定的な場合は変化しなかったことから,心理教育の効果は不十分であることが分かった。このことから,「操作的」とか「支配的」といった催眠に対する否定的なイメージを修正することが,催眠に対する忌避的態度を改善し,催眠療法の利用を促進する有効な手段であることが示唆された。心理教育の効果の性差には,わが国における伝統的ジェンダー観が影響していると考察された。