著者
大橋 周平
巻号頁・発行日
pp.1-61, 2012-03-25

2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故により,原子力発電所内から大量の放射性物質が大気,土壌,海洋中等に放出された.それ以降,東北地方から関東地方を中心に通常よりも高い空間線量が観測されるようになり,一般市民の間でも空間線量率に対し高い関心を持たれるようになった.放射線測定器はその構造,用途によって多様な種類に分類されるが,空間線量率の測定を目的としたサーベイメータに使用される検出器は,電離箱やGM計数管などの気体の電離を利用した検出器やシンチレータの蛍光現象を利用したシンチレーション検出器,半導体の性質を利用した半導体検出器から用途・状況に合わせて選択される.特に,NaI(T1), CsI(T1)シンチレーション検出器を用いたサーベイメータは感度・エネルギー特性ともに優れており,自然放射線レベルの空間γ線線量率の測定において最もよく使用される.しかし,一般市民による測定を想定した場合,シンチレーション式サーベイメータが非常に高価であるために現実的ではない.GM計数管等を用いた簡易なサーベイメータは安価ではあるが,精度の低いものが多く,その測定値の信頼性は低い.家庭用放射線測定器「エアカウンター」は株式会社エステーより開発された空間γ線線量率測定器で,上記のサーベイメータに比べて安価で使用方法も簡易的な一般市民の使用を想定した放射線測定器である.本研究では,エアカウンターの構造・原理を解析し,性能評価を行い,エアカウンターの有用性を検討した.エアカウンターはSiフォトダイオードを検出器として用いている.常温でのSi半導体検出器は一般にγ線の検出効率は低いが,エアカウンターでは真正領域を持ったPINフォトダイオードを採用しγ線の検出効率を高めている.エアカウンターの測定では,最大300秒の測定時間を要し,最終的な測定値はプログラムされた実測データと比較を行いながら決定される.性能評価の結果,エアカウンターの空間γ線線量率の測定値は,測定回数や個体差のバラツキの少ない安定した値が得られた.また,自然放射線レベルの線量に対する測定値は複数のシンチレーション式サーベイメータの測定値と高い相関が得られた.一方,エアカウンターによる測定結果には方向依存性,エネルギー依存性がみられた.これはエアカウンターの構造に起因するものであると考えられる.以上からエアカウンターを用いた空間γ線線量率測定は,高精度のシンチレーション検出器と相関した結果を得ることができ,個人の所有するサーベイメータとしてエアカウンターは十分な測定精度をもつことが確認できた.

言及状況

Twitter (2 users, 2 posts, 3 favorites)

@pcjpnet pinフォトDiという、本来、可視光線を良好に測定するための素子を電子線計測に応用して安価に作れたのですね… と、バカにしながら検索していたら、エアカウンターについての論文を見つけました。サーベイや電離箱と相関した測定ができるとのこと!すごい! https://t.co/YRsyAioLmC

収集済み URL リスト