著者
菊田 千春 Chiharu Uda Kikuta
出版者
同志社大学人文学会
雑誌
同志社大学英語英文学研究 = Doshisha studies in English (ISSN:02861291)
巻号頁・発行日
no.79, pp.61-104, 2006-03

格助詞ガが、明確に主格表示として用いられるようになるのは室町期とされ、それは、日本語が古典語から近代語への転換を示す変化の一つと考えられている。生成文法では、格助詞の種類は統語構造上の生起位置を表すと考えられることが多く、主格ガの確立も構造上の変化を映すとされる。 本稿では、格助詞を句構造のみからは論じられないという立場に立ち、主格ガの確立を、格助詞ガの性質の変化と、日本語の文法システムの変化の両面から捉えることを目指す。LFG、HPSGらの制約に基づく句構造文法の語彙主義の主張にしたがい、主語はそれを統語的に選択する主要部の述語により認可され(=主格という抽象格が付与され)、それについては古典語も近代語も変わりはないと想定する。主格の格助詞ガの確立は、その抽象格がいくつかの表現形で表されていたのが、次第に、助詞ガという形態格に固定化していくことと解釈し、その過程を捉える方法を提案する。具体的には、Kikuta (2003)で提案した、上代日本語の助詞のプロファイルや助詞選択にかかわる制約を拡充し、上代から近代語にかけての変化を、そのプロファイルと制約の優先順位の変化という観点から分析する。主格ガの成立は一見複雑に見えるが、本稿では、卓立性や名詞性などの素性とその制約の順序という視点から分析することで、単純で漸進的な一方向的変化が複合的に起こった結果ととらえられることを示す。

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