著者
坪井 ひろみ
出版者
国際協力事業団国際協力総合研修所
雑誌
国際協力研究 (ISSN:09110186)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.20-29, 2003-02
被引用文献数
2

バングラデシュにあるグラミン銀行は、従来銀行融資の対象とならないとされてきた農村女性を対象に少額の無担保融資を行っていることで知られているが、1984年に、雨漏りがする、水に浸かるといった劣悪な住環境を改善する目的で、住宅ローンを開始した。今日では、グラミン銀行から融資を受けている人のうち4人に1人がその住宅ローンで建てた住宅に住んでいる。その借り手の大半は女性である。本稿では、まず、貧困女性の現状、住宅ローン概要、女性の財産についての通念を述べたうえで、筆者の調査に基づき、家庭内において不安定な立場に立たされる場合が多い女性について、住宅ローンを利用して自己名義の住宅を所有するに至った女性と、住宅ローンを借りていない女性との比較を試みながら、特に財産面からとらえてみた。その結果、以下のことが明らかとなった。①住宅を建築するために、宅地委譲という形で男性(主に夫)からの協力を得ている、②住宅ローンの仕組みは宅地・住宅の所有者として女性を保護している、③住宅そのものが女性の大きな財産となっている、④女性にとって住宅は、老後の住み家となり得る永続的な居場所となっている、⑤貸家・貸間というビジネスが経済的な安定に寄与している。これらのことから、住宅ローンは、女性の生活に法的・経済的・社会的な安定をもたらしていることがわかった。The Grameen Bank in Bangladesh is well known for extending small-uncollateralizedloans to women living in rural villages who were previously excluded from receiving anykind of bank loan. In 1984, the bank started a housing loan program for the purpose ofimproving the inadequate housing environment such as rain leaks and flooding. Today,one out of four people with a loan from the Grameen Bank lives in housing built by thehousing loan program and majority of them are women.This article first introduces the current situation of women in poverty, and gives anoverview of housing loan programs and a general idea of women's assets. Then, based onthe author's research, it discusses women who are likely to be placed in an unstable positionin the family, particularly in light of their assets, by comparing women who successfullyown a house through the housing loan program and those who do not use the program.