著者
豊田 ひさき
雑誌
朝日大学教職課程センター研究報告 = Bulletin of the Center for Teaching Profession, Asahi University (ISSN:0917463X)
巻号頁・発行日
no.21, pp.1-18, 2019-03

岐阜県旧徳山村に生まれた川口半平は、地元部落の代用教員から県師範学校に進み、21歳で徳山尋常小学校の正規教員になる。文学青年であった川口は、新任時代から綴方教育に関心を持ち、大和尋常高等小学校に転任してからは綴方主任を務め、『岐阜県教育』に論文を投稿するようになる。県師範の同期生の野村芳兵衛等による『綴方生活』が発刊されて間もなく神田で開催された「新綴方研究講習会」で研究発表をして全国デビューする。発表の趣旨は、子どもの綴方は『赤い鳥』に掲載されるようなエリートの綴方ではなく、①「生活から生まれる言葉」で綴られる「生活綴方」、②個人的な観照に止まらず、クラスの全員が参画できる子ども大衆の生活綴方、③身の回りの社会に対して批判的な観方ができる生活綴方であること。しかも、鈴木道太が言う「北方性綴方」だけでなく、日本全国の農村の綴方であり、平野婦美子が実践した都市労働者の子どもの綴方であり、東井義雄が実践した4年生になっても自分の名前すら書けない子どもをも切り捨てない生活綴方的教育方法と内実に於いて同質であること、つまり、実質においても全国デビューしたことを明らかにした。