著者
常盤 成紀 Tokiwa Masanori トキワ マサノリ
出版者
大阪大学COデザインセンター
雑誌
Co* design (ISSN:24349348)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.71-78, 2018-03

本稿は、近年みられる、政治の現場における人工知能への期待の高まりがいかなる意味をもつのかについて、ハンナ・アーレントの『人間の条件』を手掛かりとして、政治哲学的に考察したものである。人工知能に政治をゆだねることにより、人々は公正で合理的な判断(基準)を手に入れることが期待できる。しかし政治的判断とはアウトプットに過ぎず、社会は本来、そのアウトプットが出るまでに練り上げられた、あらゆる価値観が織りなす交渉のプロセスによって作られる。そのプロセスをカットしてただ帰結を機械に求めることは、アーレント的な「活動」を無意味化するものである。その結果、人間のアイデンティティは無効化されながら、人工知能は、圧倒的情報量に基づいて、ただ私たちに判断(基準)を提供する。拒絶しようのない人工知能社会の到来の中で、私たちが人工知能に対して、必要に応じて「それは違う!」と抗うためには、議会、あるいは公的空間は、正義や平等についてもっぱら議論する空間として機能するように、制度設計する必要がある。そのために参考になるのが、不確かな人間社会を機能させるための「約束」と「許し」という、アーレントのアイデアである。