著者
山野井 徹
出版者
山形応用地質研究会
雑誌
山形応用地質
巻号頁・発行日
vol.20, pp.19-26, 2000-03-31 (Released:2015-08-24)

はじめに 今年は2000ということで,タイムカプセルを何年ぶりかで掘り出し,過ぎた日々を懐かしむ光景が各地で報道されている.そしてまた今年もあちこちで新たにタイムカプセルが埋められていると聞く.そうした楽しい行事に水を差すつもりはないが,タイムカプセルはなぜ土の中に埋めるのか,その意味は考えておく必要があろう.なぜなら,そうしたことが主に学校など教育現場で行われているからには,「なぜ埋めるの?」という生徒の質問に的確に答えられる準備を要するからである.答えが「埋めないと紛失するから」では適切な答えとはいえない.それなら「昔のものは土の中から出てくるから」との答えでは,昔の土器などは当時の人たちが土の中に捜めたのか,という疑問が残る.いや,いちいち埋めるはずがない.ならば土器が自ら土の中にもぐり込んだのか?そんなはずもない.ではどうして土器は土の中から---? かつて井尻(1966)は大学生からの同様の質問に,とっさの苦しまざれに「そりゃ,落ち葉や枯れ葉がつもって土になるからだよ」答えて,なんとお粗末な回答であったかと自省している.生物の遺体はまれに化石となって残るが陸上では土にはならず,大部分は水と炭酸ガスに分解してしまう.このように,地表の動植物は土にはならないので,土器がどうして土の中から出てくるかは,分かっているようで,分かっていないことである.タイムカプセルを土の中に埋めることの意味の適否は,土の根本的な性質にかかわることのように思える. ところで,こうした土器や石器を埋積している土についてであるが,旧石器時代の石器は赤土の中から,縄文時代の遺物は黒土の中からでてくることが多い.また,縄文期のものが赤土から出てくることはあっても,旧石器のそれが黒土から出ることはない.すなわち,黒土に埋没する土器は縄文期以降に限られるという不思議な必然性がある.この理由を的確に答えた考古学者もいない.そこで,小論では黒土と縄文時代はどんな関係にあったのであろうかということを考えるが,それには先ず黒土とは何かを明らかにしなければならない.従来黒土は「クロボク土」とよばれ,「火山灰土」と考えられてきた.地質学でいう「火山灰」とは「テフラ」と同義で,火山の噴出物が直接堆積したもので,日本列島上では酸性のマグマに由来する優白色もののが多い.火山灰が黒色であることは伊豆やハワイのような玄武岩質のマグマからなる火山活動であれば理解できるが,日本列島上の大部分の火山は安山岩や石英安山岩質のマグマからなるので,灰色の火山灰はあってもクロボク土のように黒色である火山灰が広く分布していることは地質学的に理解し難いことである.それにもかかわらず,土壌学においては,クロボク土とは「火山灰土」とされている.地質学で火山灰とはいえないものが土壌学ではなぜ火山灰土になるのか.そうしたことの検討を通し,黒土の成因が明らかにし,さらにまた黒土と縄文人との関係についても考えてみたい.

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父から聞いた、「黒土と縄文時代」の関係を説く論説を読んでいる。https://t.co/AtlDeicDyh 1950年前後にはじまったとされる人新生、アントロポセン時代が哲学の分野で話題になっていることと比べながら読んでいる。

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