著者
池田 豊子 十日市 健助
出版者
佐賀大学
雑誌
佐賀医科大学一般教育紀要 (ISSN:02880865)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.73-86, 2000-12

本稿は1929年に出版だれたヴァージニア・ウルフの『自分だけの部屋』についての考察である。この作品には二つの大きなテーマがある。一つはイギリスの家父長制での文学,特に詩に,創造的にかかわろうとした努力の過程で,いかに女性が恵まれなかったか。もう一つは19世紀イギリスのロマン派の詩人・批評家のコールリッジによって紹介された文学的な意味合いでの両性具有についてである。ここでは第一のテーマのみに焦点をあてた。(第二のテーマは続編で述べる予定)先ずウルフの講演の聴衆及び読者へのメッセージ,-女性はどのような分野であれ,自分の最も関心のあることに勇敢に立ち向かっていき,経済的自立に足るだけの収入を得ることによって自分で物を考える人になることが必要である-を紹介した。次に新世紀の幕開けのこの時に,ウルフのこのメッセージが我々に(男性・女性共に)どのような意味合いをもつかを詳しく述べた。
著者
十日市 健助 池田 豊子
出版者
佐賀大学
雑誌
佐賀医科大学一般教育紀要 (ISSN:02880865)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.87-103, 2000-12

本稿は,ドロシー・スタイン著Ada : A Life and a Legacyの付章「異常感-精神的なそして肉体的な-」の日本語訳である。この章を選んだ理由は,詩人バイロンの娘エイダが37年の短い生涯において苦しんだ様々な病気に専ら言及しているからである。医学生の立場からすると,スタイン女史が,エイダの最も長く患った病気の源を,彼女の家系をたどることによって,どのように特定しようとしたかは,特に関心をよせるところであると思われる。スタイン女史のこの問題に対するアプローチの厳格さは,彼女のスタイルともなっているが,どの学生も見習い身につけるべきであろう。
著者
柿原 正幸
出版者
佐賀大学
雑誌
佐賀医科大学一般教育紀要 (ISSN:02880865)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.63-70, 1987-12

「覚書」の中でハイネは,ゲーテ観の違いをもとに,「感覚主義的ヘレネ人」である自分を,「精神主義的ナザレ人」であるベルネと対比して二人の資質の違いを強調している。しかしこの二元的対立は,ハイネの言葉通りに受け取るわけにはいかない。ハイネがゲーテを受入れてきた過程を見ると,決して肯定的評価一辺倒ではない。政治的現象に冷淡なゲーテに対する反発と,その作品の芸術性に対する高い評価が同時にあったと思われる。「覚書」で自分のゲーテ観の否定的な面を,ベルネという対立を用いて自分の内面の矛盾を語っている。「覚書」を歴史として批判的に読むには,ハイネが用いているこうした仮構性を考慮に入れておかねばならない。