著者
村岡 貴子 因 京子
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.35-40, 2015

大学でのアカデミック・ライティング教育を、学位取得への支援だけでなく、その後社会で専門家として活躍する可能性を拓くものとして展開するための要件を認識すべく、国内外の大学教員6名に面談し、職業の場での日本語の必要度、学習方法、日本語教育への要望などについて見解を調査した。6名の調査協力者は、専門分野や国籍を問わず多読を実践し、他者からのフィードバックを頻繁に受けて論文作成方法を獲得した経験を持つ。英語使用の傾向が強まる昨今においても、日本語使用が死活的に重要な局面があると考えている。周辺的文章から情報を得ることの重要性も指摘された。日本語教育学専攻の協力者は、日本での学位論文作成過程で得た知見を基に、自身は受ける機会のなかった学部生対象のライティング授業を自国において展開していた。以上から、AW教育では、社会での活躍の手段となる日本語能力の獲得に必要な学習内容と方法、特にその学習量についての適切な予測を与え、課題に取り組む態度と学習技能を獲得させる必要があることが示唆された。今後、学習者に適切な予測形成、主体的学習を促すリソースと提供方法を開発していくことが課題であると考えられる。
著者
因 京子 村岡 貴子 仁科 喜久子 米田 由喜代
出版者
専門日本語教育学会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
no.10, pp.29-34, 2008

テキスト分析タスクを含む日本語ライティングの授業を15週間行い、終了時の自己修正課題とアンケート、さらに、受講実績が100%の学習者6名に対して行った他者の文章への評価と自己学習に対する評価の聞き取り調査によって、テキスト分析タスクの有用性を検証した。6名のうち5名は、全体構造や文体や語彙だけでなく曖昧性の少なさ等内容の特徴についても具体的な観察を行っており、論文として適切な構造を持つ文章を高く評価した。しかし、1名は、漢字語彙等の局所的問題を重大に捉えて平易さを優先し、構造的問題が残る文章を高く評価した。学習者全員に、自己の変化や日本語学習の目標についての積極的で明確な意識が見られた。以上から、この授業によって学習者の大部分は専門的文章の在り方についての知識、すなわち「論文構造スキーマ」を形成しつつあるか、既存の論文構造スキーマを学習に活用できるようになったことが示唆され、テキスト分析タスクの有用性が示された。The effectiveness of text-analyzing tasks in internalizing "schema" of academic texts was evaluated by analysis of the learners' judgments on other people's reports and the perception of their own learning. Six regular participants in a 15-week writing course that incorporated text-analyzing tasks such as mutual evaluation and peer correction through group discussion were requested at the end of the course to make judgments on three reports of varying qualities. Five participants gave correct judgments based on fairly detailed and reasonable observations on stylistic features, structure, and the quality of information. A course-final questionnaire and interviews showed that all the learners had a positive and clear perception of their learning and balanced expectations of what to be learned. Our text-analyzing tasks were considered to be effective in promoting internalization of schema of academic texts.