著者
善明 宣夫
出版者
関西学院大学
雑誌
教職教育研究 (ISSN:1345577X)
巻号頁・発行日
no.7, pp.47-54, 2002-03

本研究は,権威主義者やドグマティストにみられる自己認知および他者認知のあり方について検討することを目的として実施された。自己認知に関しては,現実自己ばかりでなく嫌悪自己と理想自己という2つの側面を加えるとともに,他者認知に関しては嫌悪他者という評価対象を設定した。結果として,ドグマティズム高・低群間で現実自己のとらえ方に違いはみられなかったが,嫌悪自己と理想自己では向性因子と強靱性因子において有意差がみられ,高ドグマティズム群は低ドグマティズム群にくらべ,嫌悪をする自分はより内向的で,弱々しく意欲に欠けているが,こうありたい,あるいはこうあらねばならない理想の自分ではより外向的で,強靱で意欲的でありたいと望んでいた。また,嫌悪他者に関しては向性因子,情緒安定性因子と過敏性因子において有意差がみられ,高ドグマティズム群は低ドグマティズム群にくらべ,嫌悪する他者をより内向的で,情緒的に不安定で,過敏であると評価しており,権威主義者やドグマティストの特徴とされる他者への不寛容さの一端が示された。さらに,理想自己と現実自己および嫌悪自己と現実自己間のDスコアに関して,高ドグマティズム群は低ドグマティズム群にくらべ,いずれにおいても不一致度がより大きいという結果から,ドグマティズム傾向の強い青年はプラス・マイナスの両極に振れやすい不安定な自己像を持つことが示唆された。こうした,高ドグマティズム群にみられる向性と強靱性の否定的,肯定的自己間での対極的な認知,他者評価の厳しさ,両極に振れやすい不安定な自己像といった特徴は,ドグマティストの中心的信念に関するRokeachの仮説を裏づけるものと考えられる。