著者
上運天 ウェスリー
出版者
法政大学
雑誌
沖縄文化研究
巻号頁・発行日
vol.17, pp.339-423, 1991-03-25

本稿の原文は1989年に社会学修士論文としてハワイ大学大学院に提出されたものだが、ここではその短縮されたものを紹介する。この論文は筆者がハワイの〈Okinawan Ethnic Community〉とよんでいる現象を吟味したものである。ここで〈Okinawan Ethnic Community>というのは沖縄人としての意識を持ち、しかもなんらかの意味で、沖縄人としての活動に積極的にたずさわっている人々からなるコミュニティーのことを指す。ハワイの"Okinawans"(沖縄からの移民達とかれらの子孫達のことで以下「沖縄人」と呼ぶ)はハワイ社会に、その一員としてとけこんでいるにもかかわらず、近年この〈Okinawan Ethnic Community〉としての働きが活発になってきた。この現象は、エシニシティ(etnic groups)のアイデンティティーというものは時間の経過とともに周囲の社会に完全に同化していくと主張する「同化理論」には反するものと思われる。又、経済的にも社会的にも多様性を持っている沖縄人は一つの階級とは言えないのだから、エスニシティ集団としてのアイデンティティー(ethnic identity)は階級的アイデンティティーが変装されたものだという理論もすくなくともハワイの沖縄人にはあてはめることができない。ハワイの沖縄人たちは多様な文化をもったハワイ社会の中で、しかもさまざまな状況に適応する形で生きている。したがって部分的には、アイデンティティーは状況によって異なると主張するアプローチを使えると思われる。ただし沖縄人としてのアイデンティティーは状況の単なる関係ではなく、むしろ、ある程度まで、アメリカ的な思想もしくはハワイ的な思想と沖縄的な文化シンボルとが融合してつくりだされたものということができる。ここでアメリカ/ハワイ的な思想というのはたとえば、「自分のルーツをみつけだす」("finding one's 'roots'")「自分の文化を保存する」("preserving one's culture")、「自分の文化を学ぶ」("learning one's culture")等、といった発想のことである。こうした発想は〈Okinawan Ethnic Community〉の大多数をしめるハワイで生まれ育った二世三世の人たちの間に強く見られるものである。