著者
松浦 紀美恵 垣原 登志子 Kimie Matsuura Toshiko Kakihara
出版者
神戸女子大学
雑誌
神戸女子大学健康福祉学部紀要 = Bulletin of the faculty of health and welfare, Kobe Women's University (ISSN:18836143)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.39-46, 2014-03-10

我が国では高度経済成長に伴う工業の発達や所得の向上により,人々の生活が大きく変化した。流通や交通網の発達により,都市部をはじめ農産漁村地方においても食や暮らしが画一化され,都市部・農産漁村部の特色が失われつつある。地域の個性を知る1つの方策として「食」が重要であると考える。こうして時代の食が失われ,日本独自の食文化が伝承されなくなっていることが懸念される。 本稿では,主菜である魚を通して食習慣について調査を行うことにした。今回は現在,魚の養殖が日本一である愛媛県を調査対象地とした。愛媛県の特徴は,耕作面積が全国平均より少ないこと,海岸線がリアル式で長いこと,山地と海が近く急峻であること,島嶼部が多いことである。 研究目的は,愛媛の食文化形成要因を明らかにすることである。調査は史誌,村史,書籍等の資料を用い,昭和40年代までの生活および食生活に焦点を絞った。 調査結果より,愛媛県で食用とされていた魚の種類は,現在とほぼ同じであること,また瀬戸内海独特の魚の存在が確認された。ほとんどの地域で魚が主菜として食されていた。 日常食としてはイワシなどの小魚や雑魚を用い,天ぷらや地域で椀種(すり身),酢漬け,煮付けなどに加え,おからを白飯にみたてた「すし」のネタとして利用していた。非日常食に利用する魚は,愛媛県全域でタイであった。料理法として生食(刺身)は同じであるが,東予地域では丸焼きか,炊き込みご飯の具材として,南予地域ではさつまであった。同じイワシの保存法でも地域により,異なることがわかった。魚の保存方法も,東予地域では天ぷらや乾燥で,中予地域は乾燥(調味液に浸漬,そのまま乾燥),南予地域は塩辛,味噌と合わせていた。これらのことにより,魚を通して地域の特性が認められた。