著者
田中 紀子 堀 清記
出版者
神戸女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

骨格筋線維数は生後まもなく決定され、それ以後は変化しないとする線維数固定説が長い間受け入れられてきた.筋線維数は数千,数万単位であることから,線維数計数の信頼性を高めるために,同一ラット筋について硝酸処理法とパラフィン法の2つの方法を適用した.その結果,筋線維数は運動により確かに増加することが判明したが,本研究では増加した線維の由来を明らかにするために,離乳直後の雌ラットを用いて,自発運動を長期間行わせ,筋を肥大させた.実験で用いた筋は走行が単一な縫工筋とし,筋の近位から遠位に分け、各部位の横断面に現れた線維数を計数し,縦断面の線維形態を調べるとともに,各部位のDNAを定量した.えられた結果は次のとおりである.対照群,運動群ともに筋線維数は,近位部から増加し,中央部においてピークに達した後減少し,遠位部では再び,近位部の線維数に戻った.運動による変化は近位部ではなかったが,中央部において,線維数の有意な増加があった.各部位における筋線維面積を画像解析システムにより計測すると,筋中央部の面積は運動により変化しなかったが,近位部および遠位部では運動により面積が有意に増加した.中央部の筋DNA量は他の部位より増加しており,筋中央部の線維数の増加が生化学的に支持された,筋中央部の線維形態を縦断面より調べると,筋の全長を走ることなく途中に終わるtepreing fiberが頻発することが確認された.以上より縫工筋は自発運動により,肥大を起こすが,運動による筋線維形態変化は部位で異なり,近位部および遠位部では線維の太さが増大することにより,また中央部では筋線維数の増加によることが明らかにされた.この筋中央部における線維数の増加はtapering fiberの出現が一因となることが明らかにされた.
著者
松浦 紀美恵 垣原 登志子 Kimie Matsuura Toshiko Kakihara
出版者
神戸女子大学
雑誌
神戸女子大学健康福祉学部紀要 = Bulletin of the faculty of health and welfare, Kobe Women's University (ISSN:18836143)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.39-46, 2014-03-10

我が国では高度経済成長に伴う工業の発達や所得の向上により,人々の生活が大きく変化した。流通や交通網の発達により,都市部をはじめ農産漁村地方においても食や暮らしが画一化され,都市部・農産漁村部の特色が失われつつある。地域の個性を知る1つの方策として「食」が重要であると考える。こうして時代の食が失われ,日本独自の食文化が伝承されなくなっていることが懸念される。 本稿では,主菜である魚を通して食習慣について調査を行うことにした。今回は現在,魚の養殖が日本一である愛媛県を調査対象地とした。愛媛県の特徴は,耕作面積が全国平均より少ないこと,海岸線がリアル式で長いこと,山地と海が近く急峻であること,島嶼部が多いことである。 研究目的は,愛媛の食文化形成要因を明らかにすることである。調査は史誌,村史,書籍等の資料を用い,昭和40年代までの生活および食生活に焦点を絞った。 調査結果より,愛媛県で食用とされていた魚の種類は,現在とほぼ同じであること,また瀬戸内海独特の魚の存在が確認された。ほとんどの地域で魚が主菜として食されていた。 日常食としてはイワシなどの小魚や雑魚を用い,天ぷらや地域で椀種(すり身),酢漬け,煮付けなどに加え,おからを白飯にみたてた「すし」のネタとして利用していた。非日常食に利用する魚は,愛媛県全域でタイであった。料理法として生食(刺身)は同じであるが,東予地域では丸焼きか,炊き込みご飯の具材として,南予地域ではさつまであった。同じイワシの保存法でも地域により,異なることがわかった。魚の保存方法も,東予地域では天ぷらや乾燥で,中予地域は乾燥(調味液に浸漬,そのまま乾燥),南予地域は塩辛,味噌と合わせていた。これらのことにより,魚を通して地域の特性が認められた。
著者
阪口 弘之 井上 勝志 沙加戸 弘 林 久美子
出版者
神戸女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、学界で懇望されている『古浄瑠璃年表』編纂にむけての総合的な基礎調査研究を目的としたもので、国内外に所蔵されている正本をはじめ、絵巻・奈良絵本・写本(奧浄瑠璃を含む)などの総合調査を通じて、多くの新出本文を発掘して、古浄瑠璃史の更新にむけての基礎資料の整備充実を果たした。また、これら新出資料の年代考証と併せ、初期段物集や当代諸日記等の記録類の調査整理をも重ね、総合的な古浄瑠璃年表作成にむけての研究作業環境を整え、今後へ引き継ぐべき研究基盤の強化を果たした。
著者
久野 和子 川崎 良孝 吉田 右子
出版者
神戸女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、21世紀に入って評価が高まっている「場としての図書館」の価値とその展開を歴史的、実証的に解明している。すなわち、欧米の学際的、先進的な「場としての図書館」の先行研究と国内外における公立図書館、学校図書館、児童図書館における広範な実地調査、資料収集に基づいた統合的な研究である。これからの日本の図書館は、利用者の情報交流、生涯学習、市民活動、社会関係資本、豊かな日常生活を効果的に創出・支援できる「第三の場」となるべきことを提言した。
著者
中川 理 赤松 加寿江 加藤 玄 野村 啓介 伊藤 毅 杉浦 未樹 大田 省一 岸 泰子 上杉 和央 中島 智章 坂野 正則
出版者
神戸女子大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

まず日本国内におけるテロワール調査として東京近郊における参照産品として、野田市の醤油工場見学および研究会を実施。ワイン以外にも「テロワール」の形成がどのようになされているのを検討する上で参照事例となった。将来的な成果発表を行う国際シンポジウムのため、シャンパーニュメゾンのドゥーツ社会長へプレゼンテーションを行い、11月には宇治茶の製茶会社である福寿園の担当者と研究交流会を開催した。1月には台湾調査を実施し、多様な茶生産が流通とともに変容しながらも、テロワールを構築している状況を調査することが出来た。2月には「テロワールと流通」を軸にテロワール報告会を実施。シャトー・クーテットに関する調査分析の進捗を確認し、「テロワール」形成の現場に触れ、研究を深化することができている。一方、2020年3月初めには、フランス・ボルドーのサンテミリオン調査を予定していたが、コロナ発生により断念することとなり、2020年度、2021年度に予算繰り越しにより、国外調査によらない研究活動を実施した。2020年度は研究会をオンライン中心で実施し、9月には東アジア環境史学会大会においてポスターセッション「テロワール研究」を立ち上げ、ボルドー大学のフレデリック・ブトゥル教授をコメンテーターにしたパネルディスカッションを実行することができた。2021年度には3回のオンライン中心の研究会を実施し、また2月に「若手研究セミナー」を京都で開催し、研究を深化することができた。また京都近郊和束町茶業集落および滋賀県のワイナリーの生産現場の調査を行い知見を深めることが出来た。また、国内におけるテロワールの現地調査として、九州における嬉野茶産地やワイン生産の現場の調査を実施することができ、国内外におけるテロワールの実態を把握することができた。
著者
平田 構造 中西 正恵 中井 昌子 安坂 友希 吉田 美奈子
出版者
神戸女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

衣服の快適性には吸湿性能が重要な因子である。吸湿性の高い衣服では、蒸発した汗の吸湿に伴って衣服が吸着を発生することが布吊を用いた実験結果でよく知られている。しかし、吸着熱が衣服を着用する人体に及ぼす温熱生理的な影響に関する研究は極めて少なく、これまで皮膚温、体温と主観的申告(温冷感)の測定に限られていた。そこで本研究では、汗の吸湿に伴う吸着熱が体温調節反応にどのように影響するのかについて、検討を行うことを目的とした。実験はできるだけ類似の物性値を示すが、吸湿性の高い綿100%(C)と、吸湿性の低いポリエステル100%(P)を用いた衣服を着用した健康な成人女子を被験者として行なった。被験者は室温27.2℃、湿度50%の人工気候室で椅座安静にして、水温35℃の水槽内に下肢を10分間浸漬した後、水温を41℃まで15分かけて上昇し、その後は同温を45分間維持した。この間の温熱生理反応を測定した。実験中、衣服内水蒸気圧、衣服表面水蒸気圧、全身水分蒸発量はCとPの間に有意な差は認められなかったが、衣服に覆われた部位の平均皮膚温、皮膚血流量、服表面温度、衣胆内温度はCとPの間に発汗開始後に有意な差が観察された。別に行った実験衣服のみの吸着熱を測定した結果では、室温27.2℃不変の状態で湿度のみ50%から95%まで上昇させて衣服表面温度を測定したところ、では2.3℃の上昇を示したがPでは0.4℃であり、吸湿によりCがPより有意に大きな吸着熱を示した。以上の結果から吸湿性の高い衣服は水蒸気を吸湿することにより多量の吸着熱を発生しすることが明らかとなった。着用実験でもヒトが発汗を開始すると皮膚から蒸発する多量の汗を吸湿してC衣服に吸着熱が発生するため、皮膚血流量の増加、皮膚温の上昇、温冷感が暑い側の申告をするなどの体温調節反応が明らかに生じることが判明した。
著者
佐藤 誓子 寺西 佑華 竹部 聡美 平石 あずさ Chikako SATO Yuka Teranishi Satomi Takebe Azusa Hiraishi
出版者
神戸女子大学
雑誌
神戸女子大学健康福祉学部紀要 (ISSN:18836143)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.85-96, 2016-03

目的:保育所給食における行事食の献立を作成して提案する。方法:3-5歳児を対象とした毎月の行事食の献立を作成した。各々について5名分の試作を行った後に最終献立を作成した。結果:毎月の行事(七草粥,節分,ひな祭り,入園祝い,こどもの日,食育,七夕,土用の丑,月見,ハロウィン,亥の子,クリスマス)に関連のある行事食を作成することができた。結論:今回のような献立内容であれば,保育所の給食献立における行事食としての提供は可能である。
著者
植戸 貴子 Takako Ueto
出版者
神戸女子大学
雑誌
神戸女子大学健康福祉学部紀要 (ISSN:18836143)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-13, 2011-03

今日の知的障害者福祉分野では,施設から地域への移行が進められている。一方で,いわゆる「親亡き後」に施設入所する人や,地域で様々な課題を抱えながら生活している人も多い。そのため,親によるケアが難しくなった後も,知的障害者を地域で適切に支えていくことが必要となるが,この点の議論はまだ十分ではない。そこで本稿では,知的障害者が地域で安心・安全に暮らし続けるために,どのような支援や仕組みづくりが必要かを探るために,障害者相談支援事業の相談支援専門員等を対象に聞き取り調査を実施した。その結果,地域の知的障害者の「相談支援事例に見られる課題」としては,①本人の要因,②家族関係の問題,③家庭外の人間関係,④危機的状況があることが分かった。また「必要な支援や仕組み」として,①生活基盤の確保,②本人への直接的支援,③本人を取り巻く支援環境の整備,④支援者の支援力などが挙がった。さらに「相談支援の課題」としては,①生活の拠点の確保の問題,②本人の課題への対応,③家族の課題への対応,④サービスの仕組みの問題,⑤相談支援体制の問題が指摘された。今後さらに,知的障害者の地域での自立生活を保障するような支援の仕組みを構築していくことが求められる。
著者
植戸 貴子 杉野 昭博 新道 由記子
出版者
神戸女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

親による知的障害児者の殺害予防やケアの抱え込みの解消を目的とした相談支援の実践方法について実証的研究を行った。相談支援従事者及び母親に対する調査を実施した結果、子の世話に熱心に取り組む母親には、世話に積極的な意味を見出して子の自立や社会参加を促そうとする「開かれたタイプの母親」と、子と一心同体になり世話に限界や孤立を感じている「閉じたタイプの母親」がいることが分かった。更に「母親によるケアから社会的ケアへの移行」の促進要因と阻害要因を抽出し、それらを踏まえて「社会的ケアへの移行」に向けた相談支援の実践ガイド(案)を作成し、熟練相談支援従事者の意見を踏まえて実践ガイド(案)を修正した。