著者
道又 元裕
雑誌
第16回日本クリティカルケア看護学会学術集会
巻号頁・発行日
2020-06-19

侵襲によって組織へのダメージが生じると、そのダメージが末梢組織の受容体や末梢神経への刺激となって、末梢からの刺激や興奮が中枢神経へ伝達されます。ダメージを受けた組織や周辺組織では、細胞膜酵素の活性化が起こり、肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの種々のchemical mediatorが遊離され、血管透過性亢進(血管内皮細胞間隙の膨化開大)をはじめとして平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などをもたらします。これらの変化が刺激となって細胞膜酵素の活性化が一層促進されるとともに炎症性サイトカインがアラキドン酸カスケードを活性化して様々な生理活性を有するエイコサノイド産生します。一方、同じカスケードにリポキシゲナーゼが作用し、ロイコトリエンを産生させます。他方、アラキドン酸カスケードは、血小板機能を凝集するPAFをも産生し、産生されたPAFがアラキドン酸カスケードを活性化します。PAFは血小板凝集のほか、気管支平滑筋の収縮や気道過敏性の亢進、また、心拍出力の 低下と血管透過性亢進などの作用を持つため、血栓症、気管支喘息などのアレルギー疾患、エンドトキシンショックのメディエータでもあり、種々の受容体拮抗薬が治療薬として開発されてきています。ダメージを受けた組織からはカリクレインが遊出し、血清タンパクの一部が分解されブラジキニンが生成されます。ブラジキニンは、血管内皮細胞収縮を起こし、間隙を開大させ血管透過性亢進を引き起こす他、発熱や痛み、一酸化窒素合成酵素(NOS)を活性化させます。NOSは血管内皮細胞内でアルギニンから血管平滑筋に対して強い弛緩作用を有する(血管拡張)NOを産生します。NOは敗血症性ショック時の血管拡張やニトログリセリン製剤の血管拡張の機序でも知られています。アラキドン酸カスケードの活性は、炎症反応に強く関与しており、発熱、痛み、血管拡張(特に細動脈)、血管透過性亢進、凝固・線溶系の不調和、脂肪代謝、Na+-K+チャネルの変調、サイトカインの生成と抑制、好中球などの免疫細胞の活性と不活化、好中球の化学遊走性などをもたらします。末梢神経の刺激は、交感神経の興奮を引き起こし、神経伝達物質であるカテコールアミンがストレスホルモンとして血中に放出されます。その結果、以下に示すようなそれぞれが有する生物活性を示し、優位な作用が標的組織・器官に強く表れます。各種chemical mediatorの遊離は、ダメージ部位を中心とした局所におけるマクロファージ)、顆粒球(特に好中球)、血管内皮細胞などを刺激し、それぞれから免疫情報伝達物質であるサイトカインを分泌産生します。そのサイトカインネットワークが侵襲時における急性相反応を大きく修飾しています。炎症部位では、サイトカインに活性化されたマクロファ-ジ、好中球、補体が、さらには、それら自身が炎症性サイトカインやNOを分泌します。その一方では、炎症性サイトカインの産生によって、細胞性免疫(リンパ球群)の活性は抑制されます。炎症性サイトカインは、血液循環によって全身にデリバリーされ、各臓器の血管内皮細胞に存在する転写因子であるNF-κBを活性化し、接着分子(ligand)を発現させ(NF-κBがサイトカインの発現を増加させる)、免疫細胞は、接着因子を介して血管外へ遊走する。その結果、手術部位を中心とした局所の炎症反応が惹起され、それは数時間後に全身へと波及していき、SIRSの状態を形成します。このような生体反応の仕組みの中で、最近における話題や注目すべき事柄について若干の示唆を含めて述べさせて頂きます。