著者
谷守 正寛 Masahiro TANIMORI
出版者
甲南大学国際言語文化センター
雑誌
言語と文化 = The Journal of the Institute for Language and Culture (ISSN:13476610)
巻号頁・発行日
no.25, pp.169-209, 2021-03-24

In this paper, the latent and essential pattern of Japanese sentence will be established that might be able to be discovered through the consideration of the relation between the topic and kakarimusubi (the rule of linked forms that is said to had spread before the Muromachi Period), based on the observation of the linguistic phenomenon of sentence structure terminating not with the dictionary end-form of a declinable word (yo−gen1) like a verb or an adjective but with the adnominal form (rentaikei ) that ought to be followed by a noun (taigen) or nominal that is attributively modified by it.The author considers the similarity or something common between the verbal or adjectival sentence structure with kakarimusubi and the nominal sentence structure, pointing out that the Japanese sentence structure with kakarimusubi has something in common with English cleft sentence structure and referring to the behavior of the adnominal form of yo−gen that terminates a sentence as that of taigen that also terminates a sentence as the prototype of nominal sentence like 'Haru wa akebono.', and constructs, based on his previous studies on the topic marker wa and Japanese nominal sentences, a hypothesis that the topic of a sentence tends to demand or aim at the adnominal form of a declinable as a nominal at the end of a verbal or adjectival sentence.本稿では,日本語の係り結び文について,本居宣長以来様々に問われてきた係り結び構文の構造が都合よく説明できるように考察すべく,従来の捉え方とは異なる新たな提案として,英語の分裂文との間にその表現上の意図から生じる構造的及び意味機能上の特徴に共通点があることを指摘しつつ,また,用言の連体形は修飾機能を持つものの体言的な性格も有しながら,その被修飾句+係助詞ゾが,分裂文と同様に,強調のために前置されて残された修飾部の連体形のまま文終止を担うようになったと言えようことを指摘し,先行する係り結びの研究を援用しつつ,係り結び文において強調される文要素が文中で確固たる地位を与えられ安定的に常置されるようになると,その必要性の希薄化による役割の弱体化とともに係助詞の衰退を招き,そこにガが古来属格であったことからも,また文中の都合の良い位置関係から見ても,体言的性格を持つ用言の連体形に属格的に機能する格好で前接するポジションを取り,或いは,文末述語句に対する補助的(格)要素として係助詞特にゾに代わる格好で入り込み,その句内の位置からみてもやがて主格として強く意識されるようになった,と合理的にみられようことを例示し考察した。 主題については,紙上の文内で線上的に単に要素移動として取り扱うものとしてではなく,独自の視点からクオリアトピック(Quale Topic)とメモリートピック(Memory Topic)という2 つのカテゴリーに大別し,しかし共通して,文末述語句である連体句とは,文頭の主題から格関係に関わりなく抽出される様々な情報を含む要素でありながら,話者にとってもっとも表出したいものが単純に(論理性に係わらず)接続されて文末に配置されるものとし,そこに係り結びに係る従前から唱えられた倒置理論を修正しつつ融合させて,文成立全体としての整合性を独自に考察した。その上で改めて,「象は鼻が長い」といった現代文を吟味すべく,古文の係り結び文と対照させながら,上述したように,係助詞の前接部分が前置されてのち係助詞の衰退・消滅後も係留される中で,助詞の穴を補うかのように格助詞ガの入り込むに適した余地がそこに与えられ,結果的に「〜ハ〜ガ〜」という構成上の主要要素が基本文型の原型に組み込まれてきたことについても少しく考察した。今後も残る日本語の基本文型に係る課題について独自の手法で吟味したいと考えている。