著者
Onbe Takashi Kakuda Shunpei
出版者
広島大学水畜産学部
雑誌
Journal of the Faculty of Fisheries and Animal Husbandry, Hiroshima University (ISSN:04408756)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.21-45, 1962-12-20

1) 内湾における魚類の生態を明らかにすることを目的として,瀬戸内海中央部の笠岡湾において,湾内に極めて濃密に設置される桝網の漁獲物を,ほぼ周年にわたって調査した.2) 桝網漁獲物中に出現した魚類は48科83種に達した.この外,頭足類11種,甲殻類11種,剣尾類1種をえた.3) 漁獲物の組成では魚類が数量共に首位を占め,個体数,重量はそれぞれ,全漁獲物中の82%および72%に達した.漁獲量には季節的変動があり,夏期に多く,冬期に少ない.4) 期間中ひきつづいて,かなり大量に漁獲された魚類4種(テンジクダイ,スズキ,マルアジ,イシモチ)について,その出現時期,湾内における成長,その他二,三の生態的事項について述べた.5) 出現時期および数量から,笠岡湾内に出現する魚類は,昼態的に次の三者に分類することができる.i) 湾内に定住するもの:テンジクダイ,ヒイラギ,アミメハギ,マハゼ,サツパ等.ii) 湾内に一時的に滞留するもの:a. 産卵のため成体が来遊するもの:魚類ではみるべきものが少ないが, トウゴロイワシ,ダツ科の2種(ダツ,テンジクダツ)等がある.b. 幼期にのみ来遊し,湾内で成育するもの:マルアジ,スズキ,イシモチ,マコガレイ,イシガレイ, トカゲエソ,アカカマス等.iii) きわめて稀に出現するもの:クロアナゴ,サンマ,ギンカガミ等.
著者
Watanabe Moriyuki Ashida Koichi
出版者
広島大学水畜産学部
雑誌
Journal of the Faculty of Fisheries and Animal Husbandry, Hiroshima University (ISSN:04408756)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.431-447, 1964-12-20

属間雑種の作出を目的としてコーライキジ雄をニワトリ雌(小しゃも雄を白レグ雌lこ交配して得たF1) に交配して6羽のF1を得ることに成功した.その雑種卵の受精率,ふ化率及び雛の発育過程における種々の変化について観察した結果は次の如く要約される.1. 自然交配により得られた雑種卵6個は全部受精卵で,ふ化日数は22-26日,平均23.8 土1. 6日で6個が全部ふ化した.2. 雑種の雛の一般外貌及び行動はニワトリよりもむしろキジに類似した.3. 6カ月令で雑種の平均生体重は1,672gに達し,その両親鳥の体重の何れをも凌駕し所謂heterosisの現象が認められた.4. 羽装の色は可成り遣いがあり,白,薄茶,濃茶及び黒が現われた.5. 瞬及び脚の色も亦可成りの遠いがあり,灰白色,石盤色及び石盤色様の黒となった.6. 雑種の尾羽長はその両親鳥の中間であった.7. 雑種はニワトリの特徴である肉髭や耳梁もなければ又キジの特徴である耳房も無い.しかし約5カ月令に達する頃より全雑種に低いパラ冠が現われて来た.8. 雑種の性比は雄:雄=4:2でHaldane rule に一致する.9. 雑種の蹴爪は形,大きさ,及び位置については両親鳥の蹴爪の夫々の中間であった.10. 雑種の脚の鱗片数は平均14 でその両親鳥の中間であった.11. 雑種の性機能の特質は観察出来なかった.
著者
Taki Iwao
出版者
広島大学水畜産学部
雑誌
Journal of the Faculty of Fisheries and Animal Husbandry, Hiroshima University (ISSN:04408756)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.277-343, 1964-12-20

最近数年間に我国の諸地方の知友から及び私自身が得た頭足類を分類して次の新種を見出したので報告する.(1) ツメイカダマシ(新種・新称) 標本1個,土佐湾より豊後水道に至る聞の水深120-230mより底曳網で採れたもの,黒原和男氏寄贈.套背長60mm,套幅18mm,腕はいずれも套長よりは短かく吸盤は2列に並び,吸盤の角質環は平滑で菌はない.触腕は長く,触腕頭は同腕の3.5分の1の長さで, 鈎が2列あるが吸盤はない.体は淡紫色,本属の既知のどの穏よりも大きく,叉諸特徴がちがう.日本に産することは新記録である.(2) タラパホタノレイカモドキ(新種・新称) 標本7個.日本海(福井県沖及び兵庫県沖)で採れたスケトウダラの胃中より得たもの.伊藤勝千代・西村三郎の2氏寄贈.套背長80mm,套幅24mmで,腕は亜等長で鈎と吸盤があり,吸盤は極めて微小(直筏O.69mm又はそれ以下)で角質環には7本の幅広い閣がある.雄の右第4腕の先端部は交接腕化している.発光器は動物の腹面に散布しているが,外套腹面においては成体では散在する.しかし幼若個体では6縦列に列んでいる.叉漏斗には4列,頭には5列,第4腕に3列,第3腕に1列,眼球上に1列ある.宮山湾及び豊後水道から知られているホタルイカモドキと諸点で異っている.鱈の漁場に住むと考えられるのでこの和名を設けた.(3) ゴマフイカ(新種,新称) 標本3個,土佐湾及び駿河湾産.套背長46mm,套l幅27mmで,胴は短円錐形,鰭は亜円形でその幅は套腹長にほぼ等しく,腕は胴より長く,吸盤の角質環には歯なく平滑で,左眼関口は右より大きい.触腕は套背長の2倍以上の長さで,触腕頭は僅かに膨らみ,大形吸盤の角質環には23個の歯がある.発光訟は背而より腹面に多く散布し,大きさから3積に分けられるが,腹面にあるものは一般に大形であり,規則正しく配列している.全体淡紫褐色,我国にはこれまでCalliteuthisjaponica (PFEFFER) とC. dofleini (PFEFFER) が知られていたが,本程は両種とも明らかに区別せられる.発光器の散布している状態からこの和名を設けた.(4) シマダコ(新属・新種・新称) 新属はマダコなどに似ているが,休躯大形で強壮な体格で,筋肉よく発達し皮膚は強靭で,歯舌の軸歯は3-7歯尖を有し,肝臓・偲・偲心臓など大形であるが墨汁嚢は退化している.体表には顕著な斑紋があり,シマダコでは斑紋の部分が弱い青白い燐光を発する.八腕類で従来発光すると考えられたものは少しあるが明確になったものはなかった.しかし最近ムラサキダコ属に発光器を有するTremoctopus lucifer AKIMUSHKIN 1963 という新種が報告された.しかし燐光を発するものは本種が初めての記録である. シマダコは標本2伺,大分県南海部郡蒲江町附近(荒川好満氏寄贈)と三重県鳥羽市相差附近(烏羽水族館所蔵).体長870mm,套背長120mm,套幅80mmで,保存標本では皮膚に微小な小頼粒が一面にあり,腕は卵形で腕長は全長の81-84% に達し,強壮で,最大吸盤の直径は雄で套長の13% ,雌で9%に当る.交接腕は反対側の腕の65%の長さで,舌状片は長円錐形で,その長さは交接腕の7.4%で,傘股は厚い歯舌も強壮で軸粛には5-7蘭尖を有し,他の歯も大きい.漏斗器はW形.内臓器官で後唾腺・肝臓・惚・偲心臓などすべて大形であるが,墨汁嚢は体に比べて小さく細長い.体色(着色図版は保存標本を写生したものであるが,生時色とほとんど変っていない) は紫褐色で,淡紅色の帯状斑が体の背面に縦に並ぶ.属名は最も美しい,或は極めて美しいタコの意で,積名は荒川好満氏を記念したものである. 燐光皮膚の組織.シマダコの斑紋部・地色部及び外套腹面の皮膚を切片にして組織を検した.いずれも表皮細胞層は脱落していた.斑紋部では色素胞層の直下に特異な細胞の層があるが,それは燐光を発する細胞と考えられるので燐光細胞と呼び,その層を燐光細胞層と名付けよう.その細胞は長さ26~33μ,直径9~10μ の円筒形のもので,エオシン晴好性で,級密で,極微の里民粒状で,中心部は稀薄で,核は実質内になく外にある.この細胞は密に列び,数個の集った層をしている.この層は虹彩細胞層と呼ばれたものに相当するであろうが,イカ類の発光器の組織とは全く異る.それは本程のは燐光で真の発光とは違うから当然であろう.切片によると色素胞と燐光細胞の分布は斑紋部と地色部において恨本的な差がない.僅かに地色郎では燐光細胞の分布が少いという程度である燐光の生ずる機構は明らかでないが,細胞の頼粒が発光すると考えることはできょう.向,外套腹面の皮膚には色素胞も燐光細胞も見出されない.(5) ワモンダコ(新属・新積・新称) 標本4個,愛媛県南宇和郡内海村家串附近産(荒川好満氏寄贈). 体は大形で長大のものは重量(保存標本) 2820g あった.体格強壮で皮膚強靭である.全長約600mm,套背長147mm,套幅95mm,腕は亜等長で全長の84~92 %に当り,交接腕は反対側の腕の長さの90~96 %で,舌状片は同腕の1. 3% の長さで,前舌の軸歯は3~5歯尖を有し,他の歯も幅広く太い.漏斗器はW 形,内臓器官もシマダコに似て大形でよく発達し,袈汁嚢は比較的小さい.体は暗褐色で,第2~3 腕の基部に大形の環状紋(最大のものの直径40mm) があり,腕の背雨・側面には機色の縦斑がその先端部まで存在する.もしこの燈色斑がシマダコのように燐光を発するものであるなら,生時,刺戟に対して,眼紋と共に著しい警戒色斑となると推定される.既知の限紋を有するマダコ属の種と比べて,最も大形の限紋を有するのでワモンダコの和名を付けた.(6) メジロダコ(新種・新称) 標本雌1個,大分県南海部郡浦江町附近産(荒川好満氏寄贈).マダコ亜属の小形のタコで全長175mm,套背長43mm,套幅31mm. 腕長は全長の74%,筋肉よく発達し,最大吸盤の直径は套背長の10%に当る.表面に微細な顆粒が密に存するが腹面はほとんど平滑で,歯舌の歯は一般に細く高く,軸歯は3歯尖を有する.漏斗器はW形で鰓葉は片側に8~10個,生時の体色はその写生図を提供された荒川氏の好意によって知ることができるが,全体暗灰褐色で限の縁が淡掲色,腕の吸盤は淡紅色で吸盤の基部に沿って腕の全長にわたる白線があり,静止時に腕を側方及び後方に伸ばす特性がある.保存標本では一様に暗褐色となって白線は見られない.限の縁が淡色であるのでこの和名を付けた.(7) エゾクモダコ(新種・新称) 標本雌雄15個. Paroctopus 属の特徴は必ずしも明確でなくPICKFORD氏のようにOctopus と同一視する学者もあるが,ここではROBSON氏に従って別属として考え,その新種とした.全長375mm,套背長92mm ,套幅42mm で,体表は平滑で,胴は長楕円形,腕はやや細くその長さは全長の65~70%,腕長式は1.2. 3.4. ,成熟雄の吸盤は特に拡大している.交接腕は長さが最長腕の72~79% で,舌状片は極めて細長く,交接腕長の8~12% ,漏斗は細長く漏斗器はW 形であるが各校は板めて幅広い.全体は紫掲色,北海道釧路市沖で周年エビ桁網で漁獲され,クモダコと呼ばれている.種名はこの意をとってaraneoides とし,和名は本州にもクモダコと俗称されるものがあるので区別するためエゾクモダコとした.(8) オオメダコ(新種・新称) 前種と同属で,標本雌雄121問.全長380mm,套背長75mm,套幅48mm. 体表は平滑で体質は柔軟である.眼は特に大きくその長さは套背長の1/3を占め,幼若のものは1/2にも及ぶのでこの和名を付けた.腕長は全長の74~80% で,腕長式は1. 2. 3. 4. 吸燃は小形で,その最大のものは直径は套背長の5~6% である.交接腕の長さは最長腕の54% ,舌状片は細長く,長さは交接腕長の5.3% ,陰茎は管状で盲嚢は短かい.漏斗器はW 形,体は淡灰紫色,土佐湾及び遠洲灘の底曳網で採れた.(9) セピロダコ(新属・新種・新称) 標本雌3個. Berryaヤワハダダコ属に似ているがこれとも区別しうるので新属Sasakinella とした(故佐々木望博士に献名したが,Sasakia,Sasakina,Sa sakiella は既に動物の属名として用いられているので同綴りになるのを避けるために乙の綴りとした).全長107mm,套背長25mm,套幅23mm. 体も皮膚も極めて柔軟で,体表は平滑,頭は特に幅広く,外套開口は幅広く,限は大きく,墨汁嚢はよく発達している.腕長は全長の70-75%で吸盤は小形である.漏斗は基部は融着し先端約1/3は体部と離れ,漏斗器はVV形である.体は暗紫褐色,遠洲灘で採れた(林奨一郎氏寄贈).頭部,従って背部が特に広いのでこの和名を付けた.(10) クロダコ(新種・新称) 標本雄1個,Benthoctopusチヒロダコ属の新種で既知種と比べてこれは最大である.全長575mm,套背長115mm,套幅95mm. 体表は平滑で体質はやや軟かい.頭は幅広く,腕は細長く,長さは全長の82%に及び,吸盤は小形で最大吸盤の直径は套背長の6%.交接腕の長さは最長腕の長さの61%で,舌状片は円錐形で,その長さは交接腕長の5%.漏斗器はVV形.肝臓は円盤状で墨汁嚢を全く欠いている.体は黒紫色で,背面と腹面がほとんど同色であることは注意されることである.鹿島灘産(平野敏氏寄贈).和名はムラサキダコというのはTremoctopus violaceus を指すのでこれと混同しないようにクロダコとした.(11) スミレダコ(新種・新称) 標本雌雄6個,前種と似た点があるが同属の別種とした.全長350mm,套背長75mm,套幅60mmで,体表は平滑で体質は甚だ柔軟である.腕長は全長の69-75%で腕長式は1.2. 3. 4. 交接腕は長さ最長腕の79%で,舌状片は細長く,その長さは交接腕長の5.5%,漏斗器はW形であるが外枝は短かい.墨汁嚢を欠いている.体は紫灰色,鹿島灘産,前種と共に近縁の種との比較を表で示した.