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著者
Takasuke Matsuo
出版者
Japan Society of Calorimetry and Thermal Analysis
雑誌
Netsu Sokutei (ISSN:03862615)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.133-145, 2004-06-30 (Released:2009-09-07)
参考文献数
67

原子核の運動の量子論的性質がもたらす構造と物性を主として筆者の研究にもとづいてレビューする。始めに調和振動子と自由回転子の量子力学による記述法を述べ,次にトンネル状態が核の波動性の表れであることを示す。そのような状態を表現する用語として「陽子雲」を導入する。ブロモヒドロキシフェナレノン結晶の重水素誘起相転移が水素結合上の陽子トンネル運動に由来することを,熱容量測定と遠赤外吸収スペクトルの実験にもとづいて論じ,トンネル準位をもたらす2極小ポテンシャルを実験データから導く。その結果が構造解析とよく対応することを示す。次に酸性硫酸(セレン酸)アルカリ塩結晶の重水素誘起相転移を熱測定と中性子回折の実験にしたがって論じ,極低温における構造が基底トンネル準位の陽子波動関数を反映すると解されることを示す。最も顕著な重水素効果を示す結晶として亜クロム酸の同位体誘起相転移について述べる。ヘキサクロロ金属酸アンモニウム結晶においては,トンネル回転準位の関係する重水素効果が現われる。熱測定と中性子回折によって,これらの結晶の基底状態において水素核が直径0.8オングストロームの円環状をなすことを示す。最後に核の波動性と,化学反応におけるトンネル効果及びプロトン分極率の関連に触れる。