著者
因 京子 Apduhan Kyoko I. 池田 隆介
出版者
専門日本語教育研究会
雑誌
専門日本語教育研究 (ISSN:13451995)
巻号頁・発行日
no.2, pp.38-45, 2000

本稿は、中級程度の日本語知識を持つ理系留学生が専門分野の講義やゼミに参加する技能を獲得するために、専門授業に近い形で授業の教科書として用いることのできる専門科目のための日本語教材が必要であることを論じ、その素材と作業の内容を検討する。近年、科学技術系の専門用語や文型を提示する教材やレポート作成法などについての有用な参考書が次々と提案され、研究活動に必要な日本語の知識を得ることが格段に容易になってきた。しかし学習者の多くは、主体的にそうしたリソースを利用して自分の研究活動を行う段階に至る前に、日本語能力の不足を補いつつ専門科目の活動に参加する方法を具体的に経験することを助ける教材を必要としていると考えられる。専門科目型教材は、専門の授業に近い活動を核として、言語的準備から授業参加、課題実行までの活動を総合的に体験する機会を与え、自律学習への意欲と技能とを高めることを目的とする。このような教材の素材としては、議論や提案の余地を持つ主題を選択すべきである。学習のための作業としては、言語と専門内容についての準備作業と、レポート作成などの実践的作業の両方を含めることが必要である。また、自己の学習を意識化するよう促さなければならない。教材の作成にあたっては専門科目の教官と日本語教官との連携が必須であり、授業の実施にも、日本語教官が関わる必要があると考えられる。