著者
内山 三郎 UCHIYAMA Saburo
出版者
岩手生物教育研究会
雑誌
RHACOPHORUS
巻号頁・発行日
vol.23, pp.68-74, 2012-10-01

日本における野生動物の出産の時期は、エサの豊富な春または秋あるいは夏の暖かい季節が一般的である。実験動物としてのネズミの場合は、ヒトから常に給餌されるため季節による変動は見られない。ヒトの場合も、保存技術の進歩によって食料は日常的かつ充分に確保されているため、季節による変動はほとんど無い。日本においては誕生月の違いにより、1月から3月の間に生まれた者が「早生まれ」と呼ばれている。これは日本の学校制度が4月入学のため、3月生まれの者は6歳になるとすぐ入学し、4月生まれの者は6歳になった後ほぼ1年を経過した翌年の4月に入学することによる。4月生まれに比べて3月生まれは早く入学することにより、2月生まれ・1月生まれと一緒に「早生まれ」と言われる。小学校入学の時点においては、3月生まれの児童と4月生まれの児童ではほぼ1年の違いがある。「早生まれ」の者は早く入学して早く学業を終えることになるため、早く社会に出て労働力となるという観点から、「早生まれ」は「得生まれ」とも呼ばれる地域もあるようである。「早生まれ」の者は、早く社会に出て労働力となる以外に何らかの「得」が得られているのであろうか。「鉄は熱いうちに打て」という諺が示すように、少しでも早く学校教育に入ることは早期教育的にも効果が期待できるとも考えられる。過去には、幼稚園入園以前から教育を開始すべしとする過度な早期教育の勧めもあり、有名幼稚園のお受験騒動等の社会現象もみられた。しかし、その後に見られた家庭内暴力や引きこもり等の現象は、早期教育の弊害とする見方も現れ、早期教育が有効であるのは音楽等の限られた分野のみのようである。今村・沢木の報告によれば、「早生まれ」の者はそれ以外の者に比べて明らかに体格的に劣っており、低年齢ほどその体格差が大きい。体格差は体力差に反映され、さらには運動能力差にも反映されるため、早生まれが得であることは無いようである。その顕著な例として、高校生の甲子園出場経験者の生まれ月別の人数調査により、春・夏とも4月生まれの球児が最も多く、3月生まれに向かって徐々に減少している。4月生まれの甲子園球児は、3月生まれの実に2.5倍から3倍となっている。しかし、成人であるプロ野球選手では、4月生まれから3月生まれへの月別人数の減少のスロープが緩やかになり、同じく成人である日本陸上競技選手権大会出場者の生まれ月別人数では、生まれ月による顕著な差は見られない。これらの結果および成人では生まれ月による体格差は消失しているという事実から、低年齢児の体格差を反映した運動能力の差は成人においては消失しているとしている。
著者
内山 三郎 UCHIYAMA Saburo
出版者
岩手生物教育研究会
雑誌
RHACOPHORUS
巻号頁・発行日
vol.23, pp.68-74, 2012-10-01

日本における野生動物の出産の時期は、エサの豊富な春または秋あるいは夏の暖かい季節が一般的である。実験動物としてのネズミの場合は、ヒトから常に給餌されるため季節による変動は見られない。ヒトの場合も、保存技術の進歩によって食料は日常的かつ充分に確保されているため、季節による変動はほとんど無い。日本においては誕生月の違いにより、1月から3月の間に生まれた者が「早生まれ」と呼ばれている。これは日本の学校制度が4月入学のため、3月生まれの者は6歳になるとすぐ入学し、4月生まれの者は6歳になった後ほぼ1年を経過した翌年の4月に入学することによる。4月生まれに比べて3月生まれは早く入学することにより、2月生まれ・1月生まれと一緒に「早生まれ」と言われる。小学校入学の時点においては、3月生まれの児童と4月生まれの児童ではほぼ1年の違いがある。「早生まれ」の者は早く入学して早く学業を終えることになるため、早く社会に出て労働力となるという観点から、「早生まれ」は「得生まれ」とも呼ばれる地域もあるようである。「早生まれ」の者は、早く社会に出て労働力となる以外に何らかの「得」が得られているのであろうか。「鉄は熱いうちに打て」という諺が示すように、少しでも早く学校教育に入ることは早期教育的にも効果が期待できるとも考えられる。過去には、幼稚園入園以前から教育を開始すべしとする過度な早期教育の勧めもあり、有名幼稚園のお受験騒動等の社会現象もみられた。しかし、その後に見られた家庭内暴力や引きこもり等の現象は、早期教育の弊害とする見方も現れ、早期教育が有効であるのは音楽等の限られた分野のみのようである。今村・沢木の報告によれば、「早生まれ」の者はそれ以外の者に比べて明らかに体格的に劣っており、低年齢ほどその体格差が大きい。体格差は体力差に反映され、さらには運動能力差にも反映されるため、早生まれが得であることは無いようである。その顕著な例として、高校生の甲子園出場経験者の生まれ月別の人数調査により、春・夏とも4月生まれの球児が最も多く、3月生まれに向かって徐々に減少している。4月生まれの甲子園球児は、3月生まれの実に2.5倍から3倍となっている。しかし、成人であるプロ野球選手では、4月生まれから3月生まれへの月別人数の減少のスロープが緩やかになり、同じく成人である日本陸上競技選手権大会出場者の生まれ月別人数では、生まれ月による顕著な差は見られない。これらの結果および成人では生まれ月による体格差は消失しているという事実から、低年齢児の体格差を反映した運動能力の差は成人においては消失しているとしている。