- 著者
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松浦 昌平
- 出版者
- 広島県立総合技術研究所農業技術センター
- 雑誌
- 広島県立総合技術研究所農業技術センター研究報告 = Bulletin of the Hiroshima Prefectural Technology Research Institute Agricultural Technology Research Center (ISSN:1882420X)
- 巻号頁・発行日
- no.85, pp.1-70, 2009-09 (Released:2011-07-19)
TSWVおよびCSVdの特異的プライマーを設計し、キク発病葉から全RNAを抽出し、マルチプレックスRT-PCR法を行ったところ、RNAの単独、混合ともに予想される分子量の増幅DNAが認められた。両病原に重複感染したキク粗汁液を鋳型にワンステップ・マルチプレックスRT-PCR法を行った結果、TSWVは10(-8)、CSVdは10(-5)希釈まで検出できた。以上から、キクのTSWVとCSVdを同時に高感度検出することが可能であり、親株の簡易な診断手法として利用できると考えられた。TSWVのLAMPプライマーを設計し、キクを含む各作物から全RNA抽出後、RT-LAMP反応を行った。その結果、キク、トマトおよびピーマンから増幅産物が得られた。LAMP法とDAS-ELISA法の検出感度を比較したところ、LAMP法が約25倍高かった。以上から、RT-LAMP法を利用した、キクを含む数種農作物のTSWV診断が可能と考えられた。2006年、広島県の施設キクで、茎えそ、葉の退緑などの症状が発生し、経済的被害を生じた。罹病株をトスポウイルスのユニバーサルプライマーを用いてRT-PCR法を行った結果、増幅断片が得られた。この断片の塩基配列を解析したところ、Chrysanthemum stem necrosis virus(CSNV)と高い相同性を示した。本病原ウイルスをCSNVと同定し、「キク茎えそ病」と命名した。また、本ウイルスを特異的に検出するプライマーを設計し、RT-PCR法による特異的診断が可能となった。TSWV感染キク親株におけるウイルス局在性および親株から挿し穂への伝染率を調査した。TSWVは、感染親株から採穂した挿し穂内で局在し、その検出頻度は下位茎葉で高く、頂芽で低かった。感染親株から採穂した挿し穂でのウイルス検出率は、約20〜50%で、感染親株の根においては、検出率は50%以上であった。以上から、感染キク親株から挿し穂へのTSWV伝染率は比較的高く、主要な第一次伝染源であると考えられた。露地ギク栽培におけるTSWVの被害発生要因を調査した。その結果、親株が潜在感染し、本圃でミカンキイロアザミウマが多発した場合、着蕾期までにキクえそ病が大発生することを明らかにした。一方、親株が感染しても、本圃で媒介虫の発生が少ない場合、キクえそ病は顕在化しにくいことが判明した。以上から、親株の潜在感染を第一次伝染源とし、本圃で媒介虫の多発による二次感染の結果、キクえそ病が大発生することがわかった。トラップ植物によるキクえそ病の防除効果を検討した。施設においてバーベナをキクに対して約7〜25%の割合でキクと混植した。その結果、バーベナにミカンキイロアザミウマが誘引されることで、媒介虫の発生が着蕾期まで低密度で推移し、TSWVの発生が抑制された。以上から、トラップ植物バーベナの栽植が、キクのTSWV発生を抑制し、総合防除の一手段として利用できる可能性が示唆された。