著者
喜治 都
出版者
玉川大学経営学部
雑誌
論叢 : 玉川大学経営学部紀要
巻号頁・発行日
no.21, pp.41-59, 2013

経済学における経済主体の合理的選択は,果たして個人の厚生や社会的厚生に寄与しているのであろうか。本稿では経済学で主要な役割を果たしてきた合理的経済人に見られる「合理性」の概念について,経済学の誕生以来の人間観の変遷から辿り,その限界について考察するとともに,規範的経済学の観点からより広義の合理性の概念の可能性について考察することを目的とする。第1節では,合理性の概念について概観し,自己利益追求のみを目的とした合理的選択の限界について明らかにする。続く第2節では,経済学誕生以来の人間観の変遷をたどり,自己利益が行動目的としてどのように位置づけられてきたか,また他者との相互依存関係を考慮した場合にそれが自己利益にどう影響するかなど,他者を配慮した経済主体について見ていく。最後に3節では,経済的規範と社会的規範に従う社会的存在としての人間に焦点を当て,社会的厚生について考える際の規範的アプローチの重要性を示していく。教育サービスを価値財の例として取り上げ,社会的厚生を高めるようなしくみを構築する上で,共通の価値観や信念に基づいた規範が重要な役割を果たすことを明らかにする。