著者
伊藤 耕一郎
出版者
関西大学十院生協議会
雑誌
院祭新常態2020
巻号頁・発行日
pp.15-42, 2021-03-11

筆者の研究では、2017年頃から、それまでは個別に活動していた精神世界関係者が霊性にかかわる目的のために集い、協働のため組織化するという動きが確認されるようになった(伊藤2020:13-19)。したがって本論文では、これらの新しい形態を「霊性にかんする協働組織」と名づけて、その実態を分析してみたい。筆者が接触を持つことができた協働組織は、会員が広範囲にわたってLINEやFacebookなどのSNSを通して交流し、神社や地域の聖地などを活動拠点にしている。その地域に密着した世話人が存在しているが、世話人は協働組織の統括者ではなく、人々が集うための場所を提供したり、連絡関係の中心となっているだけで、あくまでも「世話人」の域を超えていない。これらの協働組織は、「聖地の保守管理」や「金星のエネルギーを地下に落として地上を安定させる」などの具体的な目的を持って集まっており、この目的さえ同じであれば、その技法や思想背景は問われない。一例をあげれば、チャネリングを行う会員であってもハイアーセルフとのチャネリング、守護天使とのチャネリング、先祖霊とのチャネリングなど対象は違っており、またタロットであっても使用するタロットの種類が違ったり、同じ種類のタロットであっても扱い方が違うなど、同じ精神世界の中で技法や思想が全く違う者同士が集まっている。また、これらの協働組織は、新型コロナウィルス感染症対策に関しては行政の方針に対して概して批判的であり、定期的に集まってヒーリングやリーディングのために対面で接触することに抵抗を持たず、平常時と同程度の換気はするが感染防止のための換気を行うこともない。その姿勢を特徴づけるものの1つに「マスクを着用しない」ということがある。公共交通機関に乗ったり、コンビニエンスストアなどの店舗に行く時の為にマスクは所持しているが、これは「周囲を怖がらせないため」、「反社会的にみられないため」であり、いずれの協働組織においても自分たちの集まりでは、誰一人としてマスクを着用していない。さらに彼らは、「ワクチン接種」にも反対しており、集まった際にはいつも「ワクチンを打ってはいけない」ことと「ワクチン開発には裏がある」ということについて論じ合っている。一方、同じ霊性を扱っていても、宗教団体では、神道における鈴紐の撤去や手洗場の閉鎖、キリスト教会における礼拝の取りやめやオンライン化、讃美歌を歌わないなど、徹底した感染対策がなされている。本論文は霊性にかんする協働組織への現地調査を中心に、精神世界関係者がコロナ禍をどのように捉えているのかを明らかにすることを目的とし、その上で宗教団体との比較を通して、現代における両者の思想の違いについて論じたものである。