著者
後藤 千織 Goto Chiori
出版者
青山学院大学コミュニティ人間科学部
雑誌
青山学院大学コミュニティ人間科学部紀要・コミュニティ活動研究所報 (ISSN:24354686)
巻号頁・発行日
no.2, pp.21-35, 2021-03-19

本稿は、1840年代初頭のアメリカ合衆国で禁酒運動に参入した労働者階級の女性が、「真の女性らしさ」のイデオロギーをいかに解釈したのかを考察する。1840年代初頭に、大酒飲みの男性職人や男性労働者が率いる絶対禁酒運動であるワシントニアン運動が発達すると、 労働者階級や下層中流階級の女性たちも、マーサ・ワシントン協会を設立し、ワシントニアン運動を支えた。ワシントニアン運動に参加した女性たちは、女性は道徳的に優れているため飲酒癖に陥らないというイメージを否定し、女性も飲酒癖に陥ること、そして、そのよう な女性たちが救済可能であることを証明しようとした。また、ワシントニアン女性は、既存の慈善活動が飲酒癖に陥った人々を救済してこなかった現状を批判し、慈善が堕落を生み出すのではなく、むしろ更生のためには慈善が必要であることを訴えた。ワシントニアン女性は、限られた資源で慈善活動を展開し、経済的に豊かな女性だけが良心や同情心を持つという階級限定的な「真の女性らしさ」の概念に挑戦した。