著者
高木 元 タカギ ゲン
出版者
高木, 元

鶯という鳥は不思議な鳥である。万葉の時代から「我がやどの梅の下枝に遊びつつうぐひす鳴くも散らまく惜しみ」(『万葉集』八四六、巻五「梅花の歌三十二首」中の薩摩目高氏海人。)などと詠まれ、古代から長い時を通じて人々が親近感を持ち続けた鳥の一種であった。この鶯には「春鳥」「春告鳥」などという異名が備わっていることから了解できるように(『和漢三才図会』の鶯の項には「正二月に至て鳴くを春起と曰ふ。二三月に至て鳴を止む。春去と曰ふ。茶を採るの候なり。呼て報春鳥と為す。」とある。)、梅花と併せて早春という季節の到来を告げる存在でもあった。さらに「歌詠鳥」とも呼ばれ、その美しい鳴き声を愛されて飼育されるようになり、「鶯(鳴)合」と呼ばれる鳴声の優劣を競う遊戯が流行した。「ホーホケキョ」という鳴声から法華経が連想されて「経読鳥」などという異称も与えられ、同時に「鶯の谷渡り」という言葉もその声に由来したものであった。「法華経」の他にも三光(月日星)を啼くなどという見方もあり、これらは鳥の囀りを人間が勝手に解釈した結果に過ぎないのではあるが、「聴き耳」型の話とは違って、鳥類の発する音声に意味を見出すのに特殊な能力を必要としていない点に注意が惹かれる。「國文学」1999年2月号(學燈社)〈特集・ジャンルを横断する近世文学の新局面〉所収