著者
森 元幸
出版者
Institute of Radiation Breeding, Ministry of Agriculture & Forestry
巻号頁・発行日
no.47, pp.49-56, 2010 (Released:2011-07-19)

日本人のバレイショ消費量は一人あたり年間24kg弱であり、生いもを家庭で購入して調理する数量は4kg弱と少なく、総菜として購入するサラダやコロッケ、レストランでの外食、ポテトチップやフライドポテトなどの加工品の購入が合わせて13kg程度と主要な消費を占める。家庭外での消費が主力となった現状を受け、食品加工時の適性向上を主要な育種目標とし、成分特性の改良を伴う新品種の育成が進められている。生いもの皮を剥き空気中に放置するとフェノール類の酵素反応を経て褐色に変化し、数時間後には黒く変色する(剥皮後黒変)。生いもを調理加熱した時、冷めるにしたがいフェノール類の酸化反応が進み調理品の色がくすんで灰黒色が増す(調理後黒変)。早期出荷向けの「とうや」、サラダ原料の「さやか」、青果向けの「はるか」など近年育成された品種のほとんどは、「男爵薯」に比べ両黒変ともに少ない。原料いもの洗浄後に剥皮機(ピーラー)にかけて皮を剥くと、いもの目や尻に未剥皮箇所ができ、これと変色などの異常部分をあわせて特殊なナイフを用いて人手で除く(トリミング)。原料いもの凹凸が深いと未剥皮箇所が増加してトリミング作業が増え、製品の歩留りが低下し残渣処理費用も増加する。目が浅く大粒の「さやか」は、目が深い「男爵薯」に比べ、トリミング数は1/3以下となり、人件費の節減効果は大きい。収穫や輸送の際、いもが押されたり落下したりして傷や内部損傷(打撲痕)ができる。打撲による打撲痕は外観からは判別できないが、剥皮後に変色部位として認められ、トリミング作業の主要対象として歩留りに大きく影響する。「ホッカイコガネ」や「さやか」は、打撲発生が他の品種より少なく、加工原料として優れている。原料いもを低温で貯蔵すると芽の伸びを抑え消耗を抑制できるが、10℃以下の低温では還元糖が増加し、還元糖とアミノ酸がメイラード反応を起こし製品が褐色になる。低温で還元糖やショ糖の増加が起こりにくい糖量低推移型の「ホワイトフライヤー」を育成し、さらに改良を進めている。生いもが光に曝されると緑化し、同時にα-ソラニンやα-チャコニンなどのグリコアルカロイド(PGA)を生成する。このPGAは、生いも100gあたり15mgを越えると明らかなえぐ味(苦味)を感じる。サラダ原料用の「さやか」やフライドポテト用の「こがね丸」は、「男爵薯」に比べ曝光してもPGA含量の増加が少ない。アントシアニン色素を含有し、農業形質を改良した紫肉の「キタムラサキ」および赤肉の「ノーザンルビーを育成し、これを原料とするサラダや加工食品の販売が軌道に乗りつつある。また、色素濃度を向上させた紫肉の「シャドークイーン」を育成し、健康機能性成分を生かした利用が検討されている。バレイショのアントシアニン色素は強い抗酸化性を有することもさることながら、インフルエンザウイルスに対する増殖抑制効果やヒト胃ガン細胞に対するアポトーシス誘導活性などの優れた機能性が確認されている。業務向けと加工原料向け需要に品質の良さで応え、消費者を引きつける色彩と機能性により新しい需要を切り開き食生活を豊かにする。このために用途適性を向上させつつ、汎用性と安定性を拡大したバランスに優れる品種群を開発して、国産バレイショの振興を目指している。