著者
津田 陽
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.849-859, 1998-09-15

はじめに 薬剤の吸入は一般的に行われている.例えば,喘息患者へのalbuterolのような気管支拡張薬の投与には長年にわたって吸入器が用いられている.近年,バイオテクノロジーの急速な進歩に伴って多くの新しい薬剤が開発され,臨床試用が行われている.しかし,薬剤によっては従来のような経口投与では具合が悪いことがある.例えば,錠剤で経口投与された場合,薬剤が作用を発揮するべき所へ到達する前に蛋白とペプチドは胃の酵素によって簡単に分解されてしまう.肺は広大な肺胞の表面積を有し,また肺胞壁は極端に菲薄な構造をしており,さらに肺内深部の領域にはわずかの蛋白分解酵素しか存在しないという特徴から,肺に薬剤を投与する治療法が現在注目されつつあり,またその有望な方法として,エロゾールの形で薬剤を投与する吸入療法が次第に重要性を増している. エロゾール吸入療法は経口投与に比べて多くの利点を持つが,一方でいくつかの問題点もある.最も大きな問題は薬剤輸送の効率である.近年試用されているネブライザーや,定量噴霧式吸入器(MDI)のような吸入器では投与された薬剤の約5〜10%しか口腔咽頭や喉頭を通過して肺に達することができない1).このような肺内に達する薬剤量の減少は,原則的には粒子サイズや吸入気流速度を減少させることによって軽減することができるが,適切な量の薬剤を目的とする気道に確実に到達させるのは非常に困難である.エロゾールの輸送と沈着は,非常に複雑な物理学的現象であり,それらは粒子の性状,呼吸パターン(気道の流体力学),気道の解剖学的形状などに依存している. 本稿の目的は,気道におけるエロゾールの輸送,沈着に関わる基本原理を強調し,基礎的な背景となる事柄について解説することである.本稿の最後に,肺内深部でのエロゾール輸送に関する新しい概念である“stretching and folding”注1)対流混合について,われわれの最新の研究成果2,3)を簡潔に紹介する.

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