- 著者
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石福 恒雄
- 出版者
- 医学書院
- 巻号頁・発行日
- pp.11-16, 1980-01-15
筆者がここで二重身体験というのは,自分がもう一人存在するという体験の総称であり,そのなかには,後に述べるようにさまざまな様式が存在し,いわゆる自己像幻視(Heautoskopie)も含まれている。それゆえ,二重身体験は幻覚の問題と深いかかわりをもっている。筆者はここで二重身体験の考察をとおして幻覚の問題を論じていくことにしたい。 二重身の場合,それは自分自身の分身なのか他者の分身なのかは一応問題にしなければならないであろう。精神病理学上はどちらも存在するが,言葉の使い方からみる限り,Doppelgangerはむしろ他者の分身という意味が本来のものである。しかし,筆者がここでいう二重身はもっぱら自分自身の二重身を指している。筆者は最近別の論文のなかで,主として分裂病者にみられる自己の二重身(以後単に二重身とする)の問題を論じたが,ここではその論点を土台にして,幻覚の問題に直接示唆を与えてくれそうないくつかの体験の局面を選びだし,それに基づいて幻覚の問題を論じることにしたい。