- 著者
-
真鍋 重夫
- 出版者
- 医学書院
- 巻号頁・発行日
- pp.1581, 1990-10-30
克山病(Keshan disease)は,心筋障害を主徴とする中国の風土病の一つで,1935年,中国黒竜江省克山県で初めて発見され,地名にちなんで名づけられた疾患である.その後,中国の東北部から西南部にかけての細いベルト地帯での発生が確認された1).特に,山岳部や農村で発生し,小児や妊産婦での発生率が高い.また,克山病患者の大部分は,食物を自家産生する農家に発生し,その家庭の多くは経済的に貧困な農家である. 以前は,慢性一酸化炭素中毒とかウイルス性心筋炎などが疑われたが,その後の研究により生体試料中のセレン(Se)含量の低下が認められ,また発生地区の農作物や土壌中のSe含量が著しく低いことが明らかにされた2,3).このような事実から,克山病がSe欠乏を中心とする栄養障害によるものと考えられるようになった.この考えかたに基づいて克山病流行地域での大規模な亜セレン酸の予防的投与が行れ,著しい克山病の発生減少が認められた.しかし,この亜セレン酸の予防的投与(週1回,0.5~1mg経口投与)以外に,主食(キビやトウモロコシ)に大豆を加えたり,豆腐を配給したりしても,克山病の発生は減少しており,Se欠乏以外に全体的な栄養障害が克山病の原因とも考えられている4).