著者
赤木 宏行
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.397-399, 1991-04-15

種々の神経伝達物質,ホルモン,成長因子が結合するレセプターの分子実体が遺伝子クローニングの手法を用いて次々と明らかにされつつある.これらの受容体は,構造的および機能的特徴の共通項から,3つのグループ(イオンチャンネル型,G蛋白共役型,チロシンキナーゼ型,詳しくは,本誌34巻8月号(1990)の特集を参照のこと)に分類されている.このうち,イオンチャンネル型と呼ばれるものは,細胞膜を4回貫通する受容体サブユニットが4ないし5個集まって1つのイオンチャンネルを構成するタイプのものである(図1,2).この種の受容体は,中枢神経細胞およびニューロンにより直接支配される組織細胞(骨格筋や一部の平滑筋)に存在する.他の2つのカテゴリーに属する受容体が比較的時間経過の長い反応(数分から数時間)を仲介するのに対し,イオンチャンネル型受容体は,ごく短時間(ミリ秒から秒のオーダー)で反応を仲介する.すばやい筋肉の動き,瞬時の思考などの情報処理にはイオンチャンネル型受容体が中心的役割を果たしていると考えてよい.イオンチャンネル型受容体には興奮性のものと抑制性の2つがある.前者はアセチルコリンやグルタミン酸が,また後者には,γ―アミノ酪酸(GABA)やグリシンがそれぞれ伝達物質として作用する.GABAおよびグリシン受容体は,ともにクロライドイオンの透過性を高めることにより抑制作用を引き起こすという共通点を持つが,その実体は異なる物質であることが分子レベルで明らかとなっている.GABA受容体は中枢神経系全域に存在するのに対し,グリシン受容体は下位中枢,特に脊髄に多く存在し,そこで,運動ニューロン(骨格筋を支配する神経)の興奮性を制御している.この受容体が密接に関与する疾患として筋萎縮性側索硬化症(ALS),パーキンソン病,痙性脊髄麻痺などが考えられている.

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