著者
高木 淳 玉井 一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.638-639, 2003-07-01

死産児を分娩した妻(O型)が出血多量のために夫(O型)の血液を輸血したところ,妻は輸血後に副作用を起こした.Levineら(1939)は,この妻の血清から104検体のO型赤血球中80検体を凝集する抗体を見出し,ABO血液型以外の血液型の存在を指摘した(図1左).その翌年,Landsteinerらはアカゲザル(Rhesus macaque)の赤血球をモルモットに免疫して得られた抗体が,アカゲザルのみならず白人の赤血球の約85%を凝集することを見出した(図1右).アカゲザルとヒトが同じ血液型抗原を持っていることを意味するので,この抗原を“Rhesus”にちなんでRh血液型と名付け,この免疫抗体で凝集する赤血球をRh(+)型,凝集しない赤血球をRh(-)型と名付けた.そして,Levineらの症例など,ABO血液型適合の輸血において副作用を呈した者に見出された現象はRh抗原によるものであろうと推定した.しかし,その後輸血副作用を起こした患者の血清中に他の種々の抗体が見いだされ,次に述べるように1種類の抗原によるものでないことが明らかになった. Rh 血液型因子 Rh血液型遺伝子はD,d,C,c,E,eが第1染色体の上に存在する.Dとd,Cとc,Eとeの各遺伝子がそれぞれ対立遺伝子として存在し,DCe,dCEなど3個ずつセットで両親からまとめて遺伝され(図2),各遺伝子が作る抗原が赤血球膜上に表現される.Rh式血液型抗原性の強さはD>>c>E>C>eの順であり,D抗原の抗原性はE抗原よりも10倍高く,D抗原が最も強い.したがって,両親からもらった1対の遺伝子セット(例えばDCe)の中に遺伝子Dを持つヒトをRh陽性者,持っていないヒトをRh陰性者と呼ぶ(dは,いまだに抗d抗体が検出されていないので理論上の抗原である).Rh式血液型はABO型と異なり,Rh陰性者でも血清中に抗Rh抗体を持っておらず,Rh陽性の血液をRh陰性者に輸血すると受血者がRh抗原に免疫されて抗体が産生される.また,Rh陰性の母親がRh陽性の夫の胎児を宿し,その児がRh陽性であると妊娠中または分娩時に児血球が母の血流中に入り,約10%の母が免疫されてRh抗体を作る.この抗体による児への影響は初回の妊娠においては一般的に軽いが,妊娠回数が増えるにつれて新生児溶血性疾患など重い症状を来したり,また抗Rh抗体が胎盤を通過して胎児血球と反応して流産を引き起こす場合もある.Rh陰性は日本では人口の0.2%であるが白人では15%と高い.Rh血液型抗原の命名法には上記のFisher-RaceによるCDE表記と,図2に示すWienerによるRh-Hr表記法の2種類がある.

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