著者
千野 直一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.577-578, 1987-08-10

Ⅰ.運動療法と疲労 リハビリテーション(以下リハビリと略)医学では運動療法という言葉とおなじように“疲労”ということばをよく聞く.しかしながら,疲労という言葉は,日常広く用いられているにもかかわらず,これほど定義しにくい言葉も少ない.たとえば,“ああ,死ぬほど疲れた.”と疲労困ぱいしているものが,危急の場面にぶちあたると,いわゆる,“火事場の馬鹿力”といわれるように,思わぬ力を発揮したりする.すなわち,疲労という現象は,一般的には筋力が無くなった状態であるにもかかわらず,おそらく精神的とおもわれる要素によって,疲労=筋力低下という概念はもろくも崩れてしまう. そして,このようにあいまいな言葉が,リハビリ医療の場において日常茶飯事に使われていることを知って少なからず驚かされる.すなわち,神経筋疾患患者のリハビリ・プログラムを施行するにさいして,その運動量を規定するばあいに,ただなんとなく,“疲れない程度”とか,もう少し具体的に運動量を測定するとしても“疲労が翌日まで残らないように”とか,その基準とするものが客観的なものではなく,患者自身の主観的な訴えによるものであるからである.さらに,患者が“疲れた”と訴えるなかみは必ずしも,“筋疲労”を意味するものではなく,筋肉痛,息切れ,動悸など漠然としたものがおおい.

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