著者
藤澤 茂義
出版者
金原一郎記念医学医療振興財団
巻号頁・発行日
pp.36-39, 2020-02-15

海馬はエピソード記憶や空間記憶などをつかさどる脳部位である。睡眠はその記憶形成や固定化などに重要な役割を果たしていると考えられているが,その神経回路メカニズムについては不明な点が多い。神経生理学的にみると,動物が覚醒し活動的な状態と,睡眠中や安静にしている状態とでは,神経細胞の活動パターンは大きく異なる(図1)。海馬では,覚醒活動時ではシータ波(4-10Hz)と呼ばれる脳波が強く観察され,神経細胞はこの周波数で同期して活動している1)。一方,安静時や徐波睡眠時では,リップル波(ripple oscillation)と呼ばれる150-250Hzの脳波が観測される2)。リップル波は,鋭波(sharp wave)と呼ばれる1Hz程度の大きな振幅を持つ脳波に重畳されて発生するため,鋭波リップル(sharp wave-ripple;SWR)と呼ばれることもある。安静時・徐波睡眠時でも,やはり神経細胞はこのリップル波に強く同期して活動することが知られている。 このように,海馬ネットワークは大きく分けて2種類の全く異なる周波数帯域の活動パターンを持つため,それぞれの活動状態によって異なった情報処理がなされているのではないかと考えられてきた(海馬2ステージモデル)3)。本稿では,この安静時や睡眠時に特徴的なリップル波の活動が,記憶の形成や固定化においてどのような役割を果たしているかについて考察していきたい。

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